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ぶっちゃけ、お笑い芸人の給料っていくら?現役芸人が語るお金の話

連載
公開日:2020年9月10日 更新日:2021年1月5日

執筆:東大卒芸人 山口おべん

1988年生まれ。私立開成中学校・高等学校、東京大学文学部言語文化学科言語学専修課程卒業。W東大卒コンビとして「アメトーーク!」など番組出演。 2020年1月から、コンビで自身のみエージェント制を選択。芸人になった動機はいくつかあるが、一番は「モテたかったから」。

ぶっちゃけ、お笑い芸人の給料っていくら?

芸人に聞いてみたい質問は何ですか?

こう聞くと、上がってくる質問は大体決まっています。その筆頭が「ギャラいくらですか?」です。

芸人は、売れれば年収億越えもある夢のある職業です。一方で、下積み芸人が貧乏なことも知られています。最近は給料をツイートする若手芸人もいますが、実態はつかめないのではないでしょうか。

今回は東大卒芸人である山口おべんが、自身の経験を洗いざらい書いていきます。皆さまは、僕と大学の同級生との年収格差が何ケタか考えながら、楽しくお読みください。



芸人の給料の仕組み

芸人の給料はギャランティー、つまり歩合給です。個人差が大きいのはもちろん、同じ芸人でも金額は毎月異なります。俳優・タレントさんだと固定給の事務所もあるようですが、無名でも再現VTRやエキストラの仕事がある点は芸人と異なります。

実は、戦前の吉本興業は月給制でした。当時としても画期的で、芸人の生活安定や流出防止が目的だったようです。今の芸人の生活の安定も考えてほしいですが、何千組もの芸人が所属する現状では非現実的でしょう。

そして、もう一つ大前提として、芸人は個人事業主です。よく「所属=社員」だと思っている方がいますが、芸人は事務所の「業務提携先」と考えるのが正しいです。よって、事務所の福利厚生や最低賃金のルールは、芸人には適用されません。

そのため、これから書く話を常識的に「ありえない」と感じる方がいるかもしれませんが、こういう事情でありえるのだとご理解ください。

芸人としてのある月の月給は

僕の実例でお話しします。まず、僕の芸人としての過去最高月収は、芸歴2年目2月の11万円です。このときは旅館に2ヶ月泊まり込みの仕事で、温泉や朝食・夕食のおまけつき、お客さまからおひねりを頂くこともあるという、かなり恵まれた環境でした。

この話で僕が伝えたいことは、僕の7年半の芸歴のピークはかなり序盤に来たということです。それからも、TV出演のある月は多かったりしましたが、最高月収の更新には程遠いです。

逆に、とある月は明細が届くと、ライブ1本のギャラだけが入っていました。そして、その月給が25円でした。

僕は二つびっくりしました。一つは、25円から源泉徴収の2円がきっちりひかれ、手取りが23円だったことです。もう一つは、その23円のために振込手数料や明細作成費を費やし、挙げ句84円切手を貼った封筒で送られてきたことです。僕が一番「吉本興業はお笑いの会社だ」と実感したのはこのときです。

実は収支で見ると・・・

ただし、先ほどの話には少しアヤがあります。なぜなら、僕のその月のお笑いの収支は+25円ではないからです。

お笑いライブにはしばしばチケットノルマがあります。当時の吉本の定期ライブ4つを合わせたノルマは月1万6千円でした。そこからお客さんが呼べた分の戻りはありますが、毎月同じようなライブをやっていると正直お客さんを呼べなくなってきます(芸人の努力不足と言われればその通りです)。

さらに、交通費、衣装・小道具代、ネタ合わせにかかる飲食代などは、全て自腹です。僕らは漫才やショートコント中心なのでまだいいですが、コント師だと新ネタごとに出費が痛いです。コンビニコントばかりやる人や、病院コントばかりやる人がいたら、そういう事情だと思ってください。

本題に戻りますが、先ほどの25円にはこうした費用が含まれていません。そのため、収支は+25円ではありません。-2万円です。

なぜこんなシステムか

なぜ、このシステムで崩壊しないのか、不思議に思う方もいるでしょう。芸人にも一応メリットがあるのです。

①劇場運営やライブ開催には手間と時間とお金がかかるが、事務所がそれをやってくれている
②事務所名があることで信用が得られるので、本来なら「看板使用料」をとってもいい
③事務所にいることでTVに出られるが、その際ライブで貢献している芸人が優先される

①については、これだけノルマを徴収していても赤字だと聞きます。そもそもの制度見直しは必要ですが、事務所として善処はしているわけです。③は事務所にもよるでしょう。特に吉本はネタ至上主義であり、芸人は社員さんに顔も知られていない状態から始まるので、正直社内アピールという面は拭えません。

コロナの影響によって変化も

昨年の闇営業騒動あたりから、こうした制度にも少しずつ変化が訪れています。チケットノルマは少し減り、噂では社員さんが肩代わりしてくださっているそうです。

コロナの影響で、僕のコンビも3月に入っていた営業がバラシになりました。すると、その分の「ネタ制作費」なるものが振り込まれました。これは今までの吉本では考えられないことで、驚いてツイートしたら5~6人と内容がかぶったほどです。

しかも、僕らは既存のネタを改良するつもりで、さらに改良に取りかかる前に中止が決まったため、実働0でお給料が入りました。「吉本は変わったなぁ」と感慨深かったと同時に、過去の多くの仕事のギャラより高額だったため、ほんのり罪悪感を覚えたことを忘れません。

これから、エンタメ界は間違いなく厳しい数年になります。ただ、リモートの機運が増し、劇場ライブのあり方が変われば、芸人のギャラ事情が好転する転機にもなりえます。そうすれば、無理なく芸人を目指せる良い時代になるとともに、僕らはギャラ25円の最後の世代として一生のネタにできます。

執筆:東大卒芸人 山口おべん

1988年生まれ。私立開成中学校・高等学校、東京大学文学部言語文化学科言語学専修課程卒業。W東大卒コンビとして「アメトーーク!」など番組出演。 2020年1月から、コンビで自身のみエージェント制を選択。芸人になった動機はいくつかあるが、一番は「モテたかったから」。