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2021年最新のお笑い界の勢力図と事務所ごとの特長まとめ

連載
公開日:2020年7月22日 更新日:2021年1月5日

執筆:東大卒芸人 山口おべん

1988年生まれ。私立開成中学校・高等学校、東京大学文学部言語文化学科言語学専修課程卒業。W東大卒コンビとして「アメトーーク!」など番組出演。 2020年1月から、コンビで自身のみエージェント制を選択。芸人になった動機はいくつかあるが、一番は「モテたかったから」。

第七世代の台頭で、お笑いの勢力図が変わり始めています。

自分が第何世代かよく分からない芸人の一人、山口おべんです。芸歴でいえば第七世代なのですが、平成生まれでないといけないという説があったり…。売れるために下積みが必要な時代はもう終わり、売れる順番待ちをしていたはずが、僕よりよっぽど後輩もたくさん売れてしまいました。

今回は、事務所ごとの特色を芸人目線でお話ししたうえで、勢力図について考えてみます。



吉本興業の特長

お笑い界の一大看板です。所属芸人は、明石家さんまさん、ダウンタウンさんなど、挙げればキリがありません。

吉本の特徴は、第一に「ネタ至上主義」なこと。ネタは名刺代わりであると同時に、ネタを磨くことでトークなどの引き出しが増えるという考えが土台にあります。他事務所の面接でも、「ネタやりたいなら吉本さんに行け」と言われるぐらいです。現に、M-1歴代優勝者15組中12組は吉本です。

第二に、とにかく集団芸が好きなこと。2択を迫ったり対立を作りたがったりするのはお家芸で、楽屋でもちょこちょこ喧嘩のくだりを見かけます。上下関係が根強い事務所だからこそできることで、他事務所の方には本気でビビられてしまうので注意が必要です。

ところで、多くの養成所では卒業時にオーディションがあり、所属できるのは上位3分の1程度。しかし、吉本は授業態度に問題がなければ99.9%所属。なので、ビジネスキワモノでない真のキワモノが集まる事務所でもあります。もっとも、全体の人数に関していえば、入学初日にやめる人もいるぐらいで、卒業時には自然と3分の1になっているのですが。

ワタナベエンターテインメント(ナベプロ)の特長


俳優・文化人の層が厚く、芸人もホンジャマカさん、ネプチューンさんなどマルチな活躍をされる方が多いです。「ナベプロ」と呼ぶのは持ち株会社化した「渡辺プロダクション」の名残で、養成所が中目黒、劇場が表参道にあるのもお笑い界では異色です。

特徴として、「ナベプロ芸人は大喜利でボケない」と言われるのを聞いたことがあります。どうやら、「キャラクター設定重視で、あとはそのキャラクターが言いそうなことを自然に言う(と、ボケになる)」という意味らしいです。

これが納得できるのが、ピン芸人の活躍が多いこと。サンシャイン池崎さん、あばれる君さん、平野ノラさん、ブルゾンちえみ(旧芸名)など個性的なキャラクターぞろいです。確かに、凝ったことというよりシンプルに言いそうなことを言う(男が35億人なのは常識的な事実だし)わけで、むしろ、それだけで面白くなる“いそうでいない”キャラ設定が秀逸だといえます。

話題に関係なく「キャラクターで笑いがとれる」ので、バラエティー番組向きで、制作側も撮れ高が計算しやすい芸人さんたちです。それを踏まえて、僕のナベプロの一番の印象は、「吉本と並んで東大芸人が多い事務所」です。

太田プロダクションの特長


“ザ・タレント”という印象の事務所。土田晃之さん、有吉弘行さん、柳原可奈子さんらはバラエティー番組での活躍が目立ちます。芸人以外ではAKB48の新旧メンバーも多く所属され、AKB総選挙は全10回で8勝と無類の強さを誇りました。

太田プロエンターテインメントカレッジという養成所がありますが、特に芸歴が上の方は東京アナウンス学院・通称「アナ学」出身者が多数です(土田さん、柳原さんも)。専門学校のため期間は2年間、学費も養成所よりかかるため、僕はアナ学出身芸人の「電気止められた」ツイートを見るたびにガセだと思っています。

比較的、個人に委ねられる裁量が大きい印象があります。稽古場にお邪魔したことがありますが、所属芸人は予約すれば使用でき、備品もあるので簡単な撮影に便利です。上下関係や人間関係もしっかりあって、バランスの良いイメージです。

サンミュージックの特長


所属タレント第一号は、森田健作・現千葉県知事。当初は社名通り音楽が軸で、80年代には数々のトップアイドルを輩出しましたが、今一番元気が良いのはお笑い部門でしょうか。カンニング竹山さん、メイプル超合金さんなどが所属されています。

大通りに面する太田プロの真裏に事務所があることから「日陰のサンミュージック」と呼ばれたのは昔の話です。また、一時は「一発屋製造工場」とも呼ばれましたが、営業案件に強い事務所なので、皆さん息の長い活動をされています。そもそも一発当てるのがすごいし、一発当てると営業で一生食っていけると言われるのが芸能の世界です。

カズレーザーさんが「クイズ勉強会」を主宰されており、元々インテリ寄りの芸人さんが多いため、今や事務所に来てネタを書く人よりクイズを作る人の方が多いんじゃないでしょうか。かくいう僕も勉強会に参加させていただいております。クイズに限らず、一芸のある方が多く、営業ウケする芸人さんが多数です。

マセキ芸能社の特長


ウッチャンナンチャンさん、バカリズムさん、ナイツさんなどが所属され、マセキといえばネタ、それもコントのイメージです。日本映画学校(現・日本映画大学)出身者が多いことも、軸足が演技寄りになる一因だと思います。

けれど、もう一つの系譜があります。それが、出川哲朗さん、狩野英孝さん、三四郎さんと脈々と受け継がれるポンコツ路線です。お笑いですから、これは100%愛嬌、100%才能です。しかし、このタイプはネタをしっかりやろうとしすぎるとダメだったりして(だからこそ育つ事務所が限られるのですが)、なぜマセキのような職人気質で育つのかは不思議です。

コント師の方でも、素の人間性を描くタイプが多いので、大きく見れば通ずるところがあるのでしょうか。それとも、演技派ぞろいなだけに、実はポンコツの方々も…

【2020最新】お笑い芸人が所属する芸能事務所一覧・所属芸人や養成所も

お笑い界の勢力図の変化


芸人事務所はまだまだたくさんあります。主だったところでも、「松竹芸能」「人力舎」「ホリプロコム」「ケーダッシュステージ」「浅井企画」「SMA」などなど。しかし、ここまで取り上げた5つの事務所にはある強みがあります。それは、「第七世代」と明確に呼ばれる芸人が所属していること。

思うに、近年、TVで車をボコボコにして視聴者がドン引きしたりと、業界の旧来の価値観が視聴者と合わなくなりました。芸人になる側も多様化し、インテリ・医者・おばあちゃんなど、体育会系の価値観が通用しない人種が増えました。それが、「第七世代」というネーミングをきっかけに、業界に芽生えつつあった新価値観をここぞとばかりに世間と擦り合わせるチャンスが到来しているのです。

第七世代芸人は遊ぶイメージが少なく、付き合いもほどほどにします。第七世代芸人は、分からないときにはフリップを何も書きません(僕も経験あり)。かつてはタブーだったこうした価値観を「第七世代」として許容していくことで、世間とのズレを埋めつつ、過去のしきたりを“笑いのセオリー”だったと言い訳しているのです。この流れは当面続くでしょうから、第七世代芸人を擁する事務所に仕事が集中するでしょう。

もう一つ、それと逆行するような流れがあります。「タイタン」「グレープカンパニー」「ナチュラルエイト」など、有名芸人さんが独立する形で設立された事務所の、他の若手の露出が目立つようになりました。また、フワちゃんのように、元々ナベプロ出身でありながら、フリーのYouTuberとしてブレイクする事例も出てきました。

大手事務所は1人のマネージャーが受け持つ芸人が多く、動画関係などもシビアなので小回りが利きません。そのため、制作側と一定の繋がりがあれば、活動のすそ野は格段に広がっています。僕が選んだ吉本興業のエージェント制なども、もしかしたら今後有力な選択肢になるかもしれません。

お笑い芸人の僕が吉本興業のエージェント制を選んだ本当の理由

集中とすそ野の拡大。また数年~10数年で収束して、気づけばお笑い第十世代とかが出てくるのでしょうね。もし事務所に入りたい方は、それぞれの特長と時代の流れを考え、後悔のない選択をしてください。もし、それで吉本に入った場合には、後悔していなくても一緒に愚痴を言い合いましょう。

執筆:東大卒芸人 山口おべん

1988年生まれ。私立開成中学校・高等学校、東京大学文学部言語文化学科言語学専修課程卒業。W東大卒コンビとして「アメトーーク!」など番組出演。 2020年1月から、コンビで自身のみエージェント制を選択。芸人になった動機はいくつかあるが、一番は「モテたかったから」。