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東大卒お笑い芸人が学問的に語る、前説の極意と盛り上げるテクニック

連載
公開日:2023年1月20日

執筆:東大卒芸人 山口おべん

1988年生まれ。私立開成中学校・高等学校、東京大学文学部言語文化学科言語学専修課程卒業。W東大卒コンビとして「アメトーーク!」など番組出演。 2020年1月から、コンビで自身のみエージェント制を選択。芸人になった動機はいくつかあるが、一番は「モテたかったから」。

みなさん、「前説」は見たことがありますか?

お笑い好きでも、前説を見たことがない人、見たことはあるけどよく覚えていない人は意外と多いかもしれません。
そんな人も想像で構いません。前説って何が必要だと思いますか?

東大卒芸人の山口おべんが、学術的な見地を交えて前説のコツを解説します。

前説とは

前説とは、ライブや番組収録などが始まる前の時間を使って、そのイベントが上手くいくようお客さん向けに行う説明のことです。
放送することや映像として残すことは基本的にありません。

たいていは出演者とは別の若手芸人がやりますが、小さなライブだと出演者の誰かがやるケースもあります。
番組収録では、ADさんなどスタッフがやる場合も多いです。

前説自体ない場合もあります。
むしろ、ライブで前説があると格式を感じるし、そう感じてもらう目的で前説を設けることもあります。

実は、元々「前説」は映画の上映前に弁士が内容を説明することなんだそう。
きっと、当時の映像技術では先に聞いておくぐらいでちょうど理解できたのでしょう。

今の前説ではそんなネタバレはしないので、安心してください。

前説に必要な内容

前説には大きく2つの目的があります。

①注意事項やお約束の説明
②場を温める

①は、たとえば「写真撮影OKか」などのルールや「合図で番組の決めゼリフを言う」などのお約束です。
時間がないとサラッと説明することもありますが、聞いてもらいやすいよう、通常はボケを交えながら説明します。

②は、①の説明にボケを交えるのはもちろん、声出しや拍手の練習、簡単な芸などで笑いやすい空気を作ります。
言うまでもなく、わざわざ芸人に前説を任せる意味はこちらです。

いかにテッパンのパターンを多く持っているかが成否の分かれ目になります。

前説で最も大事なことは

きっと、これを挙げる人は少ないのではないでしょうか?

僕の体感だと多くの芸人が分かっていないし、分かっている人にとっては当たり前すぎてわざわざ教えません。
小さな違いのようで、分かっているのといないのとでは、すべき行動がガラッと変わります。

前説で最も大事なことは、「主役ではない」ということです。
お客さんが見に来ているのはその後の本編であり、多くの場合、自分たちは出演者でもなく告知もしていません。

つまり、興味は別にあるのです。
前説は広告動画と同じで、過度なアピールはお客さんにとって不快ですらあります。

たしかに前説は芸人が「お客さんに知ってもらうチャンス」ですが、前説だけでブレイクすることはありません。
その後の仕事に繋がるのは「円滑に盛り上げること」であり、ひいては「スタッフさんからの評価」です。

そう書くと、前説なんて経験しなくていいやと思うかもしれませんが、今のTVやSNSで芸人は何かを紹介する「名脇役」の役目が中心です。
前説で得られる感覚は、MCにも直結する現代の王道スキルです。

前説の盛り上げるテクニック

体を動かしてもらう

・手を上げる(知っている人/知らない人)
・拍手の練習
・声出し

などの定番ネタもこのテクニックです。
説明や特技にも、一緒に動いてもらう要素を取り入れると効果ありです。

【筋弛緩法】のように、筋肉をほぐすと物理的に表情がほぐれるだけでなく、連動して心の緊張もほぐれます。

また、先に行動してしまえば意欲は後から出てくるという【作業興奮】や【アクションモチベーション】は、一般に10分前後の時間がかかります。
前説中から動いてもらうことで、本編が始まる頃にちょうどお客さんの気持ちがノってきます。

さらに、【精緻化リハーサル】という記憶を定着させやすくする方法があります。
情報は、別の情報を付け足したり他の情報とまとめたりすると覚えやすくなるという、語呂合わせなどの原理です。

動くことで五感を多く使うことも精緻化リハーサルになり、話の内容や自分たちを印象づけることができます。

お客さんを巻き込む

いかにお客さんの心の壁を取り払えるかが、本編のウケを左右します。
「体を動かしてもらう」ことにもこの狙いもありますが、他にもお客さんに質問するなどの方法があります。

巻き込むときは、簡単な質問・要求から徐々に踏み込んで、少しだけ突っ込んだ質問・要求までするといいです。
【フット・イン・ザ・ドア・テクニック】や、【ローボール・テクニック】も近いですが、人は最初に小さな要求にYESと言うと、後から徐々にハードルが上がってもNOと答えづらいものです。

さらに、人は【認知的不協和】を解消しようとするため、いつもなら応えない質問・要求にまで応えると、それは「楽しいからだ」「この人に好感が持てるからだ」と後から都合よく理由をつけます。

ちなみに、【カチッサー効果】によると、要求には理由を添えるとOKしてもらえる確率が高く、理由の中身は割とどうでもいいそうです。
なので、必ず理由を添えましょう。

なんか、自分がダメ男になって言い訳している気持ちになりますが。

本編の内容や出演者になるべく絡めて話す

「前説は主役ではない」と書いた通り、お客さんが見に来たのは本編であり出演者です。

【カクテル・パーティー効果】によれば、人は自分が興味のある内容は聞き取りやすい/目に留まりやすいです。
裏を返せば、興味のない内容ばかりだとお客さんの脳に認識すらしてもらえません。

なるべく話のきっかけには本編を絡めたほうがよく、上手い人は「より楽しむために~」という目的でさりげなく自己アピールしたりします。

短時間でキャラを印象づける

「ボケたのにボケと思ってもらえなかった」という悲劇が繰り返されています。
これは、たとえば同じ「ありがとう」でも文脈で意味がガラッと変わるのに、文脈をきちんと伝えていないからです。

その人が「どんなことを言う人柄・キャラか」は文脈の大きな要素であり、特に自分たちを初めて見るお客さんへの伝わり方に差がつくポイントです。
また、先ほどの【精緻化リハーサル】にも通じますが、どんな人柄かが分かって初めて親しみが湧き、言葉が記憶に残るものです。

思い込みや第一印象から大きなギャップを与えることで、【エスカレーター効果】や【ゲインロス効果】により強く印象づけられます。
【自己開示の法則】によれば、恥や弱みを自己開示するほど親近感がアップします。

前説の限られた時間ではありますが、むしろだからこそ、いかに早くキャラを理解してもらうかがカギです。

分かりやすい形式で

うまく心を掴めたとして、お客さんとはついさっき知り合った間柄です。

また、説明事項をきちんと理解してもらう必要もあります。
形は伝わりやすいベタがいいです。もし個性を出すなら中身で。

また、ライブの場合は前説中にもお客さんが入場してくるので、途中から聞いても理解できる必要があります。

最後をきれいに終わる

前説の内容をやり切ったのに時間が余ってしまう場合があります。
そういうときも、最後の決めだけはピシっとやったほうがいいです。

【ピーク・エンドの法則】で、ある出来事の印象は「最も感情が動いたピーク」と「一連の出来事が終わったエンド」の記憶で決まります。
最後がグダグダだと、この2つのうちの片方がマイナスイメージになるので、とてももったいないです。

また、イベントだと前説がハケた直後にBGMが切り替わりMCが入ってくるので、スタッフさんがタイミングを分かるようにするためにも、終わり方はしっかり決めておきましょう。

執筆:東大卒芸人 山口おべん

1988年生まれ。私立開成中学校・高等学校、東京大学文学部言語文化学科言語学専修課程卒業。W東大卒コンビとして「アメトーーク!」など番組出演。 2020年1月から、コンビで自身のみエージェント制を選択。芸人になった動機はいくつかあるが、一番は「モテたかったから」。