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お笑い芸人に演技力は必要?演技力の鍛え方とネタの面白さへの影響

連載
公開日:2022年2月1日

執筆:吉松ゴリラ

SHUプロモーション所属。宮崎大学大学院主席。もともとコンビで活動していたが、解散後ピンへ転身。「激レアさんを連れてきた。」「新春おもしろ荘」「ガキの使いやあらへんで!」「ウチのガヤがすみません!」など多数出演。

一昔前から「あの芸人がドラマ出演!」などの見出しと共に、役者の仕事も兼業している芸人が増えている。
それでは芸人の演技力は売れる・売れないに関係してくるのか。

今回のコラムを読んで頂ければ、
・芸人に演技力は必要か
・演技力はどう鍛えれば良いのか
・芸人としての演技のうまさとは何か
を、ご理解頂ける。

是非、最後までご一読頂きたい。



芸人に演技力は必要か

必要かと問われたらぶっちぎりで必要と答える以外にない。
ぶっちゃけ無くて売れてる人もいるけど、あって困るものではない。てか無いと結構苦労する。

それではなぜ、必要か。以下、説明します。

ネタをする上で演技力は必要

漫才・コント共に演技力は必要。
特にコントだと演技力がないと結構キツい。発想でブチ抜ける場合もあるが、最低限の演技力がないとその発想を伝える事すらできない。なぜなら、ネタは比較されるものだから。

舞台でネタをやる場合は、1舞台に20〜30組が参加する。ある程度レベルが高い舞台になると、当然そこに参加しているコント師のレベルが上がり、それに比例して演技力も上がる。

そうすると、その流れで演技力がない芸人がコントを行なった場合、あまりの下手さにお客さんはコントの世界観に入っていけなくなって、お客さんが非常に笑いづらい状況を生んでしまう。

結果、みんなが自分と同じくらいの演技レベルでやるとウケるコントも、そんなにウケない。演技力はネタを高めると同時に、ネタを潰す事もあるのだ。

「じゃ、漫才は?」となると思うが、漫才も同様。
M-1に参加できる芸歴が10年以内から15年以内に変わった時、10年未満のコンビが一掃された。その理由は発想の差では無く、技術の差であり、その技術の中に演技力が入る。

ちなみに「演技ができない」っていう芸人は漫才師に多いが、そういう人は演技力が無くても表現力がある場合が大多数である。
コントみたいに「役柄」の感情を表現する事は苦手だけど、「自分」の感情を表現する力には長けているという感じ。

「どういう事?」って思った人は、漫才の音声消して身振り手振りに注目して漫才見てもらったら分かりやすい。漫才師のレベルが上がるほど、そのボディーランゲージの多さと表現力の豊かさに気づくはず。

ちなみにこれ、演技力・表現力共に無いと上のレベルで戦うにはかなりキツい。そういう芸人がキャラ芸人や邪道的な方向を模索するのが芸歴5年目あたりの芸人あるある。

タレントとして表現力が必要

演技力っていうより、表現力が必要。
売れたら芸人の仕事はネタだけではない。食レポやったり、大自然の美しさに感動したり、海外で過酷なロケを敢行したりと様々なタレント的な仕事を行わなければならない。

その際、どう美味しいのか、どう感動したのか、どうキツいのかを表現する力が必要となる。
例えば、売れてる芸人が、綺麗な景色を見ながら薄い表情で「言葉が出ない」と感動コメントをいうのはOKだけど、見た事もない若手芸人が同じ事言うと「そもそもお前の言葉を聞いた事ねぇよ」と言われNGを喰らう。

「じゃあその表現力の模範解答は何なんだ」という人には鈴木奈々さんを見てくれとお伝えする。お伝えせざるを得ない。嬉しい、大変キツい、しんどいを全身で表す表現の権化。

ただ、芸人は最悪ボケでオトす事ができるので、そこは普通のタレントさんより有利かも。


どうやって演技力を鍛えればいいのか

演技力の鍛え方は様々である。ただ、芸人はプロから直接指導されるという機会はほとんどない。
独学だったり先輩から習ったりという非常に泥臭いやり方で一歩一歩成長していく。成長の仕方はお前は泥にまみれろよのスラムダンクの赤木キャプテンのそれ。

今回は、ぼくがNSCで習った演技の授業の一部をご紹介する。

発声


声は演技の地盤。声は才能であり、声こそ才能といっても良い。
声が届かなければどんな演技も伝わらない。大きな舞台でも後方に座っているお客さんまで声を届けなければならないので、喉に負担をかけず、かつ大きな声が出せるような腹式呼吸の稽古を行う。

余談だが、当時講師の方に「舞台において良い声が出せるまで10年かかる。何いってんだこの人と思うだろうけど」といわれてそのまま「何いってんだこの人」と思っていたが、本当に10年後「良い声が出せる」の意味が分かった。

大きい小さいじゃなく、「自然に大きい」「自然に小さい」「文章を粒立てる」「単語を粒立てる」「言葉の冒頭を粒立てる」「聞き取りやすくてウケる音程を知る」など、発声のレベルはウケるウケないにダイレクトに響いてくる。

まあこれ読んでても多分、何いってんだこの人、と思うだろうけど。

感情表現をLv.0〜10段階で行う


喜怒哀楽の感情を各々10段階に分けて表現をする練習。
例えば、講師に「喜びの1」と言われればくすりとはにかみ「喜びの10」と言われればゲラゲラ笑う、子どもが見ればトラウマ必至の演技授業である。

これは例えばコントで「最初はボケに対して疑問から入り、徐々に怒りに移行し、終盤は大絶叫で終わりたい」なんかの演技プランに役に立つ。この辺りのプランは、実際やると自然に行うのが結構難しい。

芸歴1年目のコント師に多いのが、最初のツッコミから激ギレし、最後のツッコミまで全然感情が変わらないタイプ。そんなツッコミくんには「いや最初からそんなにキレないだろ」と袖で先輩がツッコミを入れる。

コントはリアリティが大事なため、大絶叫でツッコむには「そりゃそんな事になったらおれでも大声出ちゃうよな」というお客さんの共感を得るのが重要。なので、最初はボケの奇人にも社会人的な対応から入り徐々にボルテージを上げる事が大事なため、この訓練は結構役に立つ。はず。

ちなみに普通に生きていれば喜怒哀楽の「レベル10」を出す事はほとんどないため、自分ではめっちゃ喜んでるつもりでも周りから見たらおまえマジかというくらい全然感情が表に出ていない場合も多い。

この訓練は、そのリミッターを外すという効果もある。

エチュード


即興劇。シナリオ・台本・配役は全くない。最初から舞台にいてもいいし、いなくてもいい。NSCでは「雪山での遭難」とか、テーマだけ与えられる場合が多い。
とにかく打ち合わせる間もなく講師の「よーい、スタート!」の声とともにコントが始まる。

先の例は実際ぼくのクラスでやったテーマだが、その時のラストは「みんなで手をつないで回りながらUFOを呼んで終わる」みたいな事になった。やはりトラウマ必至のラストだが、意外と相手と意思疎通ができなかったりブチこんでくるヤツがいるなどで、みんなが予期しないラストに繋がったりする。

あとこれ、アドリブで全部やるので、意外と発声の練習にもなる。ボリュームの強弱の自然さや、キメの大声の出し方とか。やっぱり下手なヤツは一切感情がのらないセリフを言うだけのSiriと化す。

ちなみにこのエチュードはミニコントとして形を変え、芸人の楽屋では頻繁に行われる。

ラッキーダンス


ラッキー池田さんのダンスの授業。今はどうかは知らないが、当時は羞恥心を無くす授業という位置付けとして実施されていた。

とにかく下ネタをふんだんに盛り込んだダンスを全力で踊る。この授業の映像は、親兄弟子々孫々に至るまで決して開けてほしくないパンドラの箱と化す。

けどまあ、羞恥心を捨てる事は実際大事。ここをやりきれない芸人は舞台上でへらへらと照れが見えてスベる事すらできない。

橋渡り

エチュードの1つ。「1人分の幅しかない橋を両端から人が渡ってきて、相手に譲るよう交渉する」というエチュード。
制限時間終了後に勝敗を決め、勝ち残ったヤツはそのまま次の相手と対戦する。

各々が交渉材料となるような設定(娘が病気で薬を取りに来ている・・とか)を盛り込んでくる場合が多いので、かなり白熱する場合も多い。

ただ、組み合わせによっては死ぬほど盛り上がらず、盛り上がらなかった芸人はその授業中に芸人人生に残る深い傷を負う。


どういう人が演技が上手いのか

芸人の演技力に求められるものは下記2点である。

「そういう人」に見える演技

当たり前なんだけど、堅苦しい人を演じるなら堅苦しい人に、バカな人を演じるならバカな人に見えなきゃいけない。それも自然に。

なので、芸人には「色んなキャラクターを演じる勢」と「ある程度固定されたキャラクターを演じる勢」が存在する。
「色んなキャラクターを演じる勢」は、ライスさんやしずるさん。
「ある程度固定されたキャラクターを演じる勢」は、バカキャラの多いバイキングの西村さんや、サイコの役が多いわらふじなるおさんなど。

「そういう人に見える演技」をこなす事ができれば、芸人間での演技力の評価が上がると共に、ネタの評価も連動して上がる事が多い。
ちなみに、芸人間でこの2勢力でどちらが上とかの概念はない。その役を演じたネタがおもしろければいいので。

「笑える」演技

芸人なんで、当たり前だがここがキモ。

例えば、役者さんに芸人が台本書いてコントさせる番組があるが、下手したら台本書いた芸人より演技力が高いはずの役者さんのコントがそこまで振るわない場合も多い。

色んな原因が考えられると思うけど、ここで紹介する原因は2点。ツッコミと作風による演技。

役者さんはセリフは上手くてもツッコミ未経験な場合が多く、そこで笑いの爆発を産まない。「ツッコミを、コントのキャラクターにのせて行う」というのは一つの演技的スキルであり、この能力の高さが芸人の演技力にもつながる。

簡単にいえば、普段ゴリゴリのべらんめぇ口調のツッコミをしてたとしても、役柄によっては敬語でツッコまなければならないって感じ。芸人は、そこの演技力は必須。

もう1つは、演技がコントの作風にあっていないという場合である。
コントはマンガ。写実派ゴリゴリの画家の絵でワンピース描かれても、上手くてもおもしろくないよねという感じ。

役者さんの仕事にも「舞台」「ミュージカル」などでも演技的な差があるように、「コント」も演技として別ジャンル。NSCだと役者上がりの芸人も多いが、1年目とかだと「上手いけど笑える演じ方になってない」という場合も多い。

まとめ

今回は演技力についてお話をさせて頂いた。舞台で何かを表現する以上、演技・表現力はかなり必要性の高い能力である。

これから芸人を目指す方は、先輩のネタを見て勉強する際、台本だけで無く演じ方に着目してみるのも良いかもしれない。

このコラムがみなさんのお役に立つと幸いだ。
ご一読、ありがとうございました。


執筆:吉松ゴリラ

SHUプロモーション所属。宮崎大学大学院主席。もともとコンビで活動していたが、解散後ピンへ転身。「激レアさんを連れてきた。」「新春おもしろ荘」「ガキの使いやあらへんで!」「ウチのガヤがすみません!」など多数出演。