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お笑い芸人は「モノマネ」を習得すべし?モノマネ芸が人気の秘密

連載
公開日:2020年5月29日 更新日:2021年1月5日

執筆:東大卒芸人 山口おべん

1988年生まれ。私立開成中学校・高等学校、東京大学文学部言語文化学科言語学専修課程卒業。W東大卒コンビとして「アメトーーク!」など番組出演。 2020年1月から、コンビで自身のみエージェント制を選択。芸人になった動機はいくつかあるが、一番は「モテたかったから」。

世の中には2種類の人間がいます。
モノマネをする人間と、モノマネをされる人間です。

かっこよく言ってみましたが、自分自身がどちらでもない山口おべんです。

言葉を選ばず言えば、これまでモノマネはお笑いの本流とは別に見られてきました。
劇場も事務所も違うし、どこかで「人のふんどしで飯を食っている」という評価もあった気がします。

しかし、風向きが変わりました。
キングオブコントのファイナリストであるチョコレートプラネットさんが、ここまでブレイクしたきっかけはモノマネでした。
今やTVでモノマネを見ない日はありません。

そこに潜む、時代の流れを読み解いていきます。



常識を前提としたモノマネはウケがいい

笑いは、お客さんの「暗黙の前提」が裏切られて生まれます。
通常はフリを入れ、同じ情報・認識になるよう誘導しますが、なかなか100%にはなりません。

その点、世間の常識や共通認識を前提にした笑いは伝わりやすいです。
顔芸や下ネタが強いのはこのためです。

モノマネはご本人の情報が前提ですから、ご本人が有名なら伝わりやすいです。
最近は「街でよく見かける人」など、特定人物でないモノマネも増えましたが、伝わりやすい点は同じです。

芸人が個性的なネタをするのは、誰にでもできる安易なネタは評価されないからです。
一方、現代の価値観の多様化で、笑いの土台となる「共通部分」は少なくなっています。
モノマネは、その2つの悩みを解決できる手段です。

モノマネは尺をとらない

昔の芸人さんは1回の舞台が約15分でした。
今は、劇場だと2~4分ネタが主流、営業でも5~10分くらいでしょうか。
よく、お笑いに詳しくない方にお呼びいただくと、「悪いけどネタ時間15分しかとれない」と言われ、逆方向にゾッとします。

では、TVで売れるときに最も必要なネタ尺はどのくらいでしょう?
ずばり1分以内、それも短いほど良いと思います。
どんな番組でも、自己紹介代わりにすぐ見せられるからです。

劇場ネタだと、ツカミや状況説明で数十秒かかります。
そんな中、ものの数秒でできるもの、それがモノマネなのです。

今後も伸びるであろうYouTubeでは、視聴者の早送りや停止の判断はさらにシビアです。
時間の操作が簡単なのと、隙間時間や移動中に見る人も多いためです。

尺の短さは、この時代の最大の武器です。

モノマネはどんなシチュエーションでも使える

TVでネタができる機会は大切です。
ネタは自分たちの取扱説明書であり、視聴者の芸人への評価は今でもネタ偏重です。

しかし、現在の多くの番組において、主役は芸人ではありません。
主役は、「知識」や「発想」。
これからのビジネスは「課題解決型」だと言われますが、TVでもクイズやお役立ち、ビジネス要素のあるバラエティーが増えています。

芸人はあくまで、プレゼンターや引き出し役、盛り上げ役。
彼らのネタの時間はほとんど取れません。

けれど、モノマネなら、肝心の内容を伝えながらやることができます。
たとえばクイズ番組なら、答えの言い方や正解リアクションでモノマネができますね。

もっとも、モノマネ芸人さんが後々一番悩むのは、「いつ素を出すか」だそうですが。

モノマネ芸人は本家よりギャラが安い

最近はモノマネも多様化し、マニアックなモノマネも市民権を得てきました。
うちの相方は人ではなく、「文房具モノマネ」をやっています。

では、今から1つ習得するなら、どんなモノマネがTVに呼ばれやすいと思いますか?
番組の構成会議に頻繁に上がるのは、「ご本人が大物」であるモノマネだそうです。
ご本人のバラエティー出演が少なければベターです。

要は、モノマネ芸人と思わず、「ご本人をキャスティングした」と考えてください。
とんでもなく割安じゃないですか?
何なら、本家より決め台詞をたくさん言ってくれ、本家はNGなこともやってくれます。

文房具モノマネのご本人(ご本体)に引きはないですよね?
もちろん、個性派モノマネには別の需要がありますが、こういう目線もあるということです。

モノマネは単純にすごい

お笑いを含めた芸能系は、すごさの価値が伝わりにくいものの一つだと思います。

有名な芸人さんを挙げて、「○○は面白くない」と言う方、多くありませんか?
トップクラスがここまで全否定されるのは、芸人と政治家ぐらいだと思います。

でも、これは仕方ないとあきらめています。
だって、僕も言いますもん。

そんな芸能の中で、モノマネが「似ている」ことは分かりやすくすごいです。
仮にそのモノマネが好きでないお客さんでも、その技術は認めるところでしょう。
これは、漫才やコントとの大きな違いです。

モノマネができない僕から見れば、レパートリーの一覧は履歴書の資格欄です。

まとめ

モノマネは、今起こっているメディアの変化の象徴なのだと思います。
今は、「より短時間で」「より伝える」時代です。

M-1復活初年度に優勝されたトレンディエンジェルさんは、完成度は高いですが、かつてのM-1らしからぬ「聞き逃してもついていけるネタ」でした。
音楽でも、ここ10数年で転調が増え、1~2小節でメロディーやリズムががらっと変わる曲で印象に残るようになりました。

思えば、一昔前の劇場のお客さんは良かったですよ。
ネタがつまらなくても聞くしかないので、自分で面白いポイントを見つけてくれました。
今は、スマホを見られてしまいます。

TikTokの普及で、何かをマネをする文化は一般人レベルでも活発です。
今後もモノマネの席巻は続きそうなので、皆さん、僕にできそうなモノマネがあれば教えてください。

執筆:東大卒芸人 山口おべん

1988年生まれ。私立開成中学校・高等学校、東京大学文学部言語文化学科言語学専修課程卒業。W東大卒コンビとして「アメトーーク!」など番組出演。 2020年1月から、コンビで自身のみエージェント制を選択。芸人になった動機はいくつかあるが、一番は「モテたかったから」。