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現役お笑い芸人が教える!長続きする芸人の特徴

連載
公開日:2020年5月7日 更新日:2021年1月5日

執筆:東大卒芸人 山口おべん

1988年生まれ。私立開成中学校・高等学校、東京大学文学部言語文化学科言語学専修課程卒業。W東大卒コンビとして「アメトーーク!」など番組出演。 2020年1月から、コンビで自身のみエージェント制を選択。芸人になった動機はいくつかあるが、一番は「モテたかったから」。

お笑い界は、人の出入りが激しい業界の一つです。

僕が養成所に入ったとき、吉本だけで東京・大阪合わせて1200人の同期がいました。
そして養成所の1年間に何百人かやめていきました。
それでもかなりの人数が所属したはずですが、芸人が増えすぎてパンクしたという話は聞きません。
若手からベテランまで、年間に数百人の芸人がやめているということです。

明日急に売れるかもしれないし、売れても明日消えるかもしれない。
本人にもまるで見通しの立たない世界です。
しかしその中でも、すぐやめるタイプと長く続くタイプとには、いくつか共通する特徴があります。

僕の経験をもとに、お話ししていきます。



役者の2つのタイプ

以前、知り合いの役者さんにこんな話を聞きました。

役者には、大きく2つのタイプがいる。
1つは、根っからの演劇好きで、学生時代から演劇部で活動したり様々なお芝居を観たりしていたタイプ。
もう1つは、ミーハーで、単に「目立ちたい」くらいの理由で演劇の世界に入ったタイプ。

では、どちらの方が長続きするか。実は、後者なのだそう。

役者の世界はやりたいことばかりではない。
一つの作品にも何十人もが関わっていて、気に入らない点や評価のズレが必ず生じる。
そういうとき、自分のやりたいことがはっきりしている前者はやめてしまう。
しかし、後者は目立ちさえすればそれで良い。
そのため、やめる理由がなく、結果的に長続きする。

それを聞いたとき、あ、僕は長く続くなと確信しました。

実際、僕の周囲も本当にお笑い好きの人がやめたり、コンビの「じゃない方」だけ解散後も続けたりしています。
思うに、芸能は時代に合ったものや目新しさが評価されますから、時に「思い入れのなさ」は「フットワークの軽さ」という武器になります。

続けることで新たな楽しみに気づき、自分のやりたいこともできるようになっていきます。
血液までお笑いタイプの人にこそ、柔軟な感覚で続けてほしいです。

上のクラスに上がった芸人がやめる

劇場にはランク分けがありますが、そこで結果を出して上のランクに行った芸人が意外とやめます。
理由はおそらく、自分の限界を知るからです。

博多華丸大吉さんがTHE MANZAIで優勝された頃、芸人の間で「人(にん)」という言葉が流行りました。
十何年生きてきた「素の人柄=人」は変えられないので、無理に合わないことをやっても面白く見えないという教えです。

上に上がれるときというのは、ネタの発想だけでなく、喋り方から何から様々な要素がバチっとハマったときです。
しかし、どこかでそれが通用しない壁にぶち当たったとき、「自分は力を出し切ってこのレベルだ」と痛感するのです。

売れている人でも、過去に芸風が迷走しています。
今の評価を投げうって一からトライすることはしんどいですが、その勇気がある人が成功するのかもしれません。
売れれば、間違いなく恥ずかし写真として使われますが。

「隠れ芸歴」がある人はやめるときは早い

芸歴は養成所の期でカウントしますが、中には過去に他事務所やフリー、学生芸人などとして活動していた人も混ざっています。
賞レースの年数制限もかいくぐれるので、「芸歴ロンダリング」とも呼ばれます。
芸歴を長く言って増えるのは、ハードルの高さと奢らなきゃいけない後輩だけです。

「隠れ芸歴」がある人は既にテクニックや自分の型があるし、入り直すやる気と勝算があるのでたいてい上に行きます。
続く人は長く続きますが、やめる人はアッと驚くほど早いです。
よくよく考えるとこれは当たり前です。
だって、本人としてはトータルそこそこの年数活動していますから。

芸人になった年齢が若いほどやめやすい

これは以前先輩芸人さんが言っていたことです。

高卒ですぐ養成所に入った人は、芸歴5年でもまだ20代前半です。
まだまだ他で就職できるし、授かり婚でやめるパターンもよく聞きます。

これが大卒すぐだと、芸歴5年で三十路間近です。
30代になると就職がガクッと難しくなりますが、今なら方向転換できます。

しかし、その先輩は26歳で芸人になりました。
すると、納得がいくまでお笑いをやって5年ほど経つと、いつの間にか足の届かない沖合まで来ているのです。

実際に手遅れかどうか以上に、心理的にも「やめるなら数年早くやめていれば」というのがちらつくので、続けて売れることで回収しようとするのでしょうね。
サンクコスト効果やコンコルド効果というやつです。

また、社会人経験があると、会社勤めが合わなかったり夢を諦めきれなかったりした経験があるので、腹が決まっている人が多いです。
退路を断って売れた芸人さんは多いので、単に年齢だけの問題でもないのでしょう。

彼女ができない芸人は続く

先ほど、「芸人になったのが早いとやめやすい」という話をしましたが、これはその例外です。
結婚はもちろん、就職だって異性や家庭がちらつくから考えるのであって、失うものがない人はやめるという発想になりません。

お気づきでない方もいるかもしれませんが、これは全く褒めていません。
芸人は人気商売ですし、相手の立場で考える能力は恋愛でこそ磨かれます。
何より、「モテたい」「ちやほやされたい」というのは、序盤に書いたように最大の原動力のはず。

ただ、こういう人の中にこそ、めちゃくちゃ芸人ウケする濃ゆいキャラが潜んでいることも事実。
大化けする可能性もあるので、僕は普通の発想で意見しないようにしています。

まとめ

まとめると、一番長く続くのは「お笑い好きというよりミーハーで、ずっと下のランクで、ちょっとおじさんで、彼女ができない人」となります。
すがすがしいまでに、全く売れてほしくないですね 笑
しかし、ところどころに長く続けるヒントが潜んでいたのではないでしょうか。

お笑いを長く続けるのが幸せか、早くやめるのが幸せか、これは究極の難問です。
続けた結果売れる人もいれば、早くやめて別の形で世に出る人もいます。
けれど、仮に僕が芸人をやめる日が来ても、この経験は絶対に無駄にはならないし、心は一生芸人でありたいと思っています。
まあ、幸い僕は比較的やめにくいタイプのようなので、やれるとこまで続けてみようと思います。

執筆:東大卒芸人 山口おべん

1988年生まれ。私立開成中学校・高等学校、東京大学文学部言語文化学科言語学専修課程卒業。W東大卒コンビとして「アメトーーク!」など番組出演。 2020年1月から、コンビで自身のみエージェント制を選択。芸人になった動機はいくつかあるが、一番は「モテたかったから」。