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面白いネタを書きたい人必見!東大卒芸人が明かす論理に基づく笑い

連載
公開日:2020年5月14日 更新日:2021年1月5日

執筆:東大卒芸人 山口おべん

1988年生まれ。私立開成中学校・高等学校、東京大学文学部言語文化学科言語学専修課程卒業。W東大卒コンビとして「アメトーーク!」など番組出演。 2020年1月から、コンビで自身のみエージェント制を選択。芸人になった動機はいくつかあるが、一番は「モテたかったから」。

芸歴8年目と思えない尖ったテーマを選んだ、東大卒芸人の山口おべんです。

この話題を書いたきっかけは、先日見た番組「ドリームマッチ」です。
人気芸人さんが普段とは違うコンビでネタを披露する、画期的な番組です。

正直、昔はこの番組が苦手でした。
というのも、もしも自分がやると考えたら末恐ろしいからです。
普段のコンビですら、いったいどれだけの芸人がネタ作りに苦労しているか。
僕は養成所でコンビを5回組みましたが、最初のネタ合わせで決まることは相手の呼び方ぐらいです。

けれど、発想法を知るという目線になってから、とても大好きな番組になりました。
時間が限られた突貫工事だからこそ、一線級の芸人さんが考える「自分の強み」「ネタの何を優先するか」「どういう見せ方が響きやすいか」が露骨に見える。

前置きはこれくらいに、考えを洗いざらい書いていきます。



最も困難といわれるボケとの距離感を作るフリの加減の上手さ

まず基本ですが、笑いにはフリが必要です。
なぜなら、笑いとは「裏切り」だからです。
2つの例で考えます。

たとえば、「飛行機に乗ったことがない」と発言します。
これ自体はボケでも何でもない、ただの事実です。
しかし、飛行機マニアとして知識をさんざん披露した後に言えば、それはボケです。

たとえば、今度は急に「酔っぱらいのふり」をします。
これだけでは理解できないので、ただの奇行です。
しかし、相手が「貸していた1万円返して」と言った直後にすれば、それはボケです。

前者の例は、裏切るための前提へ、シンプルに誘導するフリです。
後者の例は、裏切っているのは世間の常識や共通認識とでも言うべきで、「下手な嘘を本気でつく」という裏切りでありギャップです。
その場合も、フリが状況を限定することで、聞き手の目線を誘導することができています。

思うに、ネタ作りで最も難しいのは、このフリの加減です。
フリが露骨すぎてもボケが読めるし、ボケから遠すぎてもフリになりません。
近年は、お笑いが浸透して先読みされやすくなっている一方、価値観の多様化で共通認識が減っているとも感じます。

この調整の上手い人が、面白いネタを書く人です。

ボケの発想法は一方通行

「ドリームマッチ」で優勝された、ロバート秋山さん×千鳥ノブさんのコンビ。
とても好きなくだりがあります。

一流カメラマン役の秋山さんが、自分は昔team(発音良く)で仕事していたと話します。
ノブさんが入れ墨に気づくと、これはそのteamの名前だと秋山さん。
書いてある「St. Alice」

「スタジオアリス!」
ノブさんのツッコミで会場は爆笑です。
まさか、チェーン店が出てくるとは。

こういうときに必ず考えてほしいのですが、このボケ、どこを出発点に考えたと思います?

「入れ墨で書いてあってダサい文字は?」では、固有名詞にはなかなか辿り着かないでしょう。
「この人本当に一流カメラマン?そう思った根拠は?」なら、チェーン店という発想は出てくるかもしれません。
ただ、入れ墨や表記に辿り着くのは困難ですし、ここまで秀逸なボケが落ちているかかなり運任せなお題選びです。

一番自然なのは、あるとき偶然スタジオアリスを見かけた。
そのとき、「Tシャツや入れ墨のかっこいい文字、書いてある内容はダサい」というあるあるが頭をよぎった。
よし、英語で書いてみたら、何なら省略表記ならよりかっこいい、と考え、
最後にギャップのある設定として、チェーンとは真逆の一流カメラマンにすることにした。

これが真実かは分かりません。
が、面白いボケはオチからの逆算の方が作りやすく、連想のしやすさは一方通行です。
なぜなら、そういうボケはお客さんに読まれにくいのに、聞いた瞬間に電流が走ったようにフリとつながるからです。

これは、普段から目に入る様々なものをアイデアの源にしているからできることで、机に向かってネタを作るだけではできません。

勝負ボケに向けてボケを畳み掛ける

上手い人はくだりの最初で勝負ボケにいきません。
先ほどの例でも、「やたら良い発音」などあってから件のボケがあり、その後にもボケが続きます。

どうやったって、個人の感覚には違いがあります。
理論的にも、自分が「詳しい」あるいは「固定観念が多い」分野ほど裏切られやすいので、人それぞれ笑いのツボは違って当然です。

しかし、今聞いているネタの中身は一緒ですから、ネタが進むほど共有される前提が増えてくる。
そこに勝負ボケを置くことで、取りこぼしを防ぐことができます。

加えて、「ボケが来る」と思うとお客さんは少し身構えてしまいます。
そんな緊張が一番緩むタイミング、それが「前のボケで笑っている間」なのです。
(ちなみに芸人にとっても、ボケのワードを間違えずに言えた直後は、一番気が緩んで噛みやすいタイミングです)

単に「数打ちゃ当たる」ではなく、お客さんが最も笑いやすい状態を生かすためにも、ボケを畳みかけることには大きな意味があります。

具体的な画をイメージさせる

たとえば、相方がやたら自分に密着してくるボケに対して、何とつっこみますか?
「満員電車か」。これでもOKです。
ただ、それより「朝の中央線か」と限定して言う方が面白く聞こえませんか?

これは、後者の方が聞き手の個人的な体験までイメージされるためです。
今はツッコミの例でしたが、ボケや話を膨らます段階でも仕組みは一緒です。
J-POPの歌詞でも、あえて狭い固有名詞を使うことはよくありますね。

面白いのが、仮に中央線を知らない相手でも、満員電車とさえ伝われば身近に「置き換えて」イメージすることです。
2005年のM-1で、迷った末にネタ中の地名を東京の地名にせず、あえて大阪の上本町で貫いたブラックマヨネーズさんが優勝されたことは有名です。

また、首都圏の混雑率で中央線は8位(2018年)ですが、1位の東西線でなくても気になりませんよね。
知識の正確性や認知度より、具体的な画を描かせることが優先される場面はたくさんあります。

同じような理由で、否定表現より肯定表現を選んだ方が上手くいくことが多いです。
「~じゃない」という状態は画が描けませんよね?
相手にネガティブな印象を与えて、好感が持たれにくいというのもあります。
些細な違いですが、気にすると意外と伝わり方が変わります。

まとめ

今回、巷ではあまり言われていないことを中心に書いてみました。
お笑いはともかく、分析は得意なのでご安心ください。
(この一文を書くために、最初に東大卒芸人というフリを足しました)

これだけを守れば面白いネタが書ける、とは思いませんが、
こういうところに意識を向ける、というのは、ネタに限らずコミュニケーション全般にも活かせるのではないでしょうか。

誰か一人でも役立ててくだされば、ネタより時間をかけて書いた甲斐があります。

執筆:東大卒芸人 山口おべん

1988年生まれ。私立開成中学校・高等学校、東京大学文学部言語文化学科言語学専修課程卒業。W東大卒コンビとして「アメトーーク!」など番組出演。 2020年1月から、コンビで自身のみエージェント制を選択。芸人になった動機はいくつかあるが、一番は「モテたかったから」。