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借金は芸の肥やしになる?お笑い芸人と借金の関係性【現役芸人が解説】

連載
公開日:2022年6月1日

執筆:吉松ゴリラ

SHUプロモーション所属。宮崎大学大学院主席。もともとコンビで活動していたが、解散後ピンへ転身。「激レアさんを連れてきた。」「新春おもしろ荘」「ガキの使いやあらへんで!」「ウチのガヤがすみません!」など多数出演。

芸人と借金は切っても切り離せない関係性だ。
最近は、まともに生活をしていればそこまで借金地獄に陥る事は無いのだが、とはいえまともな人間がいないのが芸人の世界だ。

ちなみに一昔前までは、芸人といえば貧乏&借金が背後霊の如く付きまとう存在であったが、現在芸人はその収入形態の変化から裕福な芸人もたくさん存在するようになった。
より詳しい内容を知りたい方は、「芸人の収入と支出を大解剖!若手お笑い芸人のお金事情とは」をご参照頂きたい。

今回のコラムを読んで頂ければ、
・芸人が借金をする主な原因!
・「おれはクズキャラだ!」と主張する、借金芸人あるある!
・「おれはギャンブル系の仕事を狙ってる!」と主張する、借金芸人あるある!
・「これは先輩との人脈作りだ!」と主張する、借金芸人あるある!
を、ご理解頂ける。

是非、最後までご一読頂きたい。



クズクズクズ!クズの巣窟!しかしそれが芸人だ!

現在の芸人は、そこまで食うに困ってはいない。
法令整備された令和のバイト環境は、貧困を極めて借金に走る芸人の数を激減させた。
まともに生活をしていれば、貧乏だとしても借金をするまでには至らないのだ。

それではなぜ、芸人は借金をするのか?
それは、借金を抱えている芸人のほとんどがギャンブルをするからだ。

稀有な例でいうと「芸人をする前に自営業をやっていたが倒産し、多額の借金がある」「離婚して子供が三人いて、その養育費を支払わなければならない」などの特殊パターンがあるが、基本的にはギャンブル一択と思ってもらっていい。

芸人は借金に対して考え方が緩い節があり、それは芸人という職業から起因するものも多い。
今回はその借金に対しての甘い芸人達を、カテゴリ分けしてご紹介する。

借金はキャラ!おれはクズキャラだと主張する人々


「借金=クズ」「クズ=キャラである」という非常に安易な三段論法から、借金自体を肯定する人々。

このタイプは古き良き芸能界に思いを馳せる人間も多く、「カンニング竹山さんは売れる前から、借金をしてでも後輩にメシをオゴっていた」「千鳥の大吾さんは後輩に初レギュラーが決まると、そのお祝いに借金して寿司をオゴった」という、売れた先輩芸人の借金エピソードと債務整理の法律知識に異常に詳しい。

このタイプはクズの中でも本物のクズが多く、「クズ=キャラである」という三段論法を「言い訳」に使っている人間が多い。
彼らはその三段論法が言い訳になっている事を「完全に自覚しているタイプ」と、「思い込もうとしている」二タイプに分かれる。
つまり、双方共に気づいてはいる。

例にあげた先輩芸人のエピソードはそれはそれはカッコいいものでもあるが、彼らは芸歴と共に、ただただ借金が重なっているだけの先輩芸人が多数存在する事を徐々に知り戦慄を覚える。
その頃には借金が50万以上に増えている事が基本であり、1〜2社は限度額MAXまで借り入れているのがデフォルト。

引くに引き返せず、芸人人生に全ベット。リアル人生ゲームに臨む事になる。


借金は先行投資!ギャンブル系の仕事を狙ってると主張する人々


ギャンブル系の仕事を狙っているため、ギャンブル自体が仕事につながっていると主張する人々。
彼らの感覚ではギャンブルにつぎ込む借金はある意味必要経費であり、彼らの中で借金では無い。

興味ない人はあまり知らないだろうが、芸人に割り振られるギャンブル系の仕事は幅広く、高額ギャラも多い事で有名。
競馬・ボート・競輪・パチンコと、その幅は全ての公営ギャンブルを巻き込むほど。

当然そこに出演する芸人は、そのギャンブルに精通している事が基本であり、自身の知識・経験と技量により番組を盛り上げる。
また、ギャンブル番組中心に出演している芸人は世間的には無名な芸人も多く、若手芸人のおれにもチャンスがあるんじゃねという感情を刺激する。

このタイプはギャンブル系の仕事を狙うと言いながらも、狙い方が全く分かっていないタイプが多い。
特に仕事を取りにいくような動きもみせず、ただひたすらにギャンブルに熱中する。
「パチンコ番組を持ちたい」と夢を語りながら競馬場に赴き、数万負けて翌日は後輩芸人とボートレースに赴くのが通例。

ギャンブル番組において、世間的に無名な芸人がMCを担当する事は良くある事ではあるが、芸人界では名を知られているレベルの芸人の場合も多い。
更に、公営ギャンブルの仕事とはいえパイは限られており、無為無策の輩がいっちょ噛みできるほど甘くはない。

しかし、大体5〜10年の年月を掛けて、彼らが突然進化する。
上述したギャンブルのパイの大きさや露出している芸人を調べ上げ、まだ手つかずなギャンブルや自分が入り込めそうな隙間を探し出す。
そして戦略的かつ効果的な方法を考え、人脈作りに奔走、その隙間に己の人生をベットする。

結果、「パチンコ台の前でギャンブルをする」から「自身の人生でギャンブルをする」に変化しただけだが、そう、それでいいのだ。
人生とは誰にとってもギャンブルなのだから。

金では買えない物がある!先輩との人脈が広がると主張する人々


先輩達とギャンブルを通じて繋がっているため、借金はその人脈ヘの投資だと主張する人々。
同じ趣味趣向というものは、人種性別を超えて人と人とを繋げていく。
ことギャンブルにおいても、それは同様。

このタイプは、元々から根っからのギャンブル好きである場合が多い。
例えば、競馬好きなら芸人になる前から競馬にハマっており、劇場を経て同じ競馬好きの先輩と知り合ったパターン。

この繋がりは芸人としてではなく「同じ趣味を持つもの同士」という「仲間」に近い感覚であり、気が合えばかなり可愛がられるケースも多い。趣味の世界に地位や名誉が存在しないのと同様、ネタバトルで出来上がったピラミッドの階級差を超えて仲良くなるケースも多数。
通常では、ネタで上にあがらなければ顔さえ覚えてもらえないような尊敬できる先輩とも、意外とすんなり繋がれたりする。

更にそこは趣味の世界、事務所を超えた独特なコミュニティが出来上がっており、上手くすればそれなりの先輩芸人達の人脈を得るキッカケともなり得る。
これを成した若手芸人は、同期から嫉妬と羨望の眼差しで眺められる事になる。

しかし、このタイプの厄介な所は、まさに「共通の趣味を持つもの同士」という繋がりに他ならない。
ギャンブルから足を洗おうとすれば、そのままそこで繋がった先輩との縁が切れる。
いや別に先輩が切ろうとする訳ではないのだが、会う機会が激減するのだ。

芸人の世界は「見て盗む」という言葉がある通り、自分が尊敬する先輩の一挙手一投足は非常に勉強になる。
狙いにいったボケのレベルが違うどころか、何気ない日常会話すらテンポ・抑揚の付け方・合いの手の入れ方まで、全てのレベルが遥かに違う。
そこで得られる物は多く、この勉強の場を逃したくないと感じてる芸人は、そのギャンブルから抜けられなくなる。

ギャンブルが趣味と実益を兼ね備えているこのタイプは、バイトやネタの稽古時間を削ってでも先輩と競馬場に行き、半年後相方にブチギレられる事になる。

ちなみにこのタイプのほとんどは「その先輩との繋がりに悦を感じているから、この繋がりを逃したくない」「ちょうどネタ合わせをサボる口実になる」と感じてギャンブルに興じるクズ芸人が大多数であり、彼らは借金はするけどネタ合わせはしないという、自分で自分の墓を掘るような救いようのない作業を繰り返す。


まとめ

今回は借金についてコラムを書かせて頂いた。
借金借金借金と、これから芸人を目指している人が読んだら背筋が凍りそうな内容であったが、冒頭に述べた通り普通に生活をしていたら借金せずとも十分に暮らしていける。

収入としては少ないながらも財布を引き締め、貯金を計画的に行い、小金持ちになっている芸人も少数ながら存在する。

こと芸人の世界に限って言うと、借金自体はそれほど悪い事では無い。
人とは違う経験を舞台で話して笑いをとるのが芸人の基本であり、やはり借金話は大きな笑いを生む武器となる。
しかし、借金の金額が膨らみ過ぎてしまうと、芸人を辞めざるを得なくなる場合もある。

芸人はその職業柄、「売れたら大丈夫!」という小さな希望が常に心の中にある。
人によってはその希望が辛酸を舐めた時に立ち上がる力となるが、その希望が悪い方に出る場合もある。

これから芸人を目指す方は是非、その塩梅を調整しつつ健全な借金生活を送って欲しい。

このコラムがみなさんのお役に立つと幸いだ。
ご一読、ありがとうございました。


執筆:吉松ゴリラ

SHUプロモーション所属。宮崎大学大学院主席。もともとコンビで活動していたが、解散後ピンへ転身。「激レアさんを連れてきた。」「新春おもしろ荘」「ガキの使いやあらへんで!」「ウチのガヤがすみません!」など多数出演。