powered by 賃料6万円以下専門店「部屋まる」

【現役芸人が語る】若手芸人のあるある、生活・バイト事情などの裏話

連載
公開日:2020年9月30日 更新日:2021年1月5日

執筆:東大卒芸人 山口おべん

1988年生まれ。私立開成中学校・高等学校、東京大学文学部言語文化学科言語学専修課程卒業。W東大卒コンビとして「アメトーーク!」など番組出演。 2020年1月から、コンビで自身のみエージェント制を選択。芸人になった動機はいくつかあるが、一番は「モテたかったから」。

若手芸人って、普段何をしているかご存知ですか?

え?バイト?
ちょっと何言ってるんですか。大正解ですよ。

でも、もちろんそれだけでなく、ちゃんと芸人としての活動もしています。実際どんな活動があるのか、あまり知られていませんよね?

今回はデビューから数年の話を中心に、わたくし東大卒芸人の山口おべんが、裏話を交えて書いていきます。



ライブなどの手伝い

事務所が主催するイベントがあれば、手伝いをするのは若手芸人の仕事です。
お笑いライブのみならず、最近の芸人さんは音楽イベントや運動会も開くので、そういった場の手伝いもあります。イリュージョンショーのこともありました。

やることは社員さんの指示に従いますが、機材・備品の運搬、チケットもぎり、お客さんの誘導などなど。僕は、別でイベントスタッフのアルバイトをしていたことがありますが、内容は大体同じでした。

手伝いのギャラは時給換算で1000円以下です。なぜかと言うと、ライブの勉強の時間を含んでいるからです(もっとも、バイトと同じ時給ならそっちを雇うべきですね)。
実際、そこそこ見学できることが多いですが、開演のピークをこなしてどっと疲れが出る時間帯なので、そこだけすっぽり記憶が抜け落ちていることもしばしばです。

また、吉本は主だった賞レースの運営も行っているので、予選、特に1回戦のスタッフにはたくさん駆り出されます。

ここで重要なのが配置です。舞台裏はネタが聞き取れてお得なのですが、中途半端なのが、お客さんの出入りのために劇場の扉を開閉する役。防音の扉越しに、うっすら声が聞こえて一番気になるのです。当時聞き耳を立てすぎたせいか、最近、隣の部屋の人の声がよく聞こえます。

劇場の呼び込み

劇場の入口で、道行く人に公演の紹介や施設の案内をします。東京吉本では特に「キャラバン」と呼び、渋谷・新宿・幕張などで法被を着た芸人が声を張り上げています。大阪吉本ではNSC生のうちからやるようです。

キャラバンで一番ありがたいのは、ファンがつくことです。劇場の常連さんとは顔馴染みになり、ライブのときに投票してくれたりします。お客さんの中には、次の芸歴1年目が入るたびに毎年渡り鳥のように移っていく「1年目ファン」の方なんかもいらっしゃいます。

ここで難しいのが、キャラバン中にどれくらいお客さんと話すかです。お客さんは芸人とタダで話せるので粘りますが、キャラバンはあくまで一人でも多くのお客さんを呼び込むのが仕事です。

僕は、話し過ぎて社員さんから注意メールを頂いたことがあります。それからは、お客さんの話がどんなに佳境でも、3分に1回はさえぎって大声で告知をしていました。

余談ですが、渋谷の無限大ホールはセンター街の成れの果てみたいなところにあり、よく迷子の外国人の方が流れ着きます。キャラバンで立っているとよく道を聞かれるため、僕は東大のときより英語が喋れるようになりました。

カメリハ

手伝いの中でもちょっと気合が入るのが「カメリハ(=カメラリハーサル)」です。番組の本番より前に、僕らが出演者の代役となって一連の流れを確認するものです。

若手芸人は「あわよくばアピールできるんじゃないか」と思っていたりしますが、直接仕事に繋がることはほとんどありません。それでも、目線のやり場が難しいとか、服のどこにマイクを付けるかとか、現場を経験して学ぶことは多いです。中でも一番勉強になるのは、お弁当が美味しいということです。

立ち位置・座り位置の確認もあるので、一人一人に出演者の誰か役が割り振られます。このとき、誰役かによって若手芸人は内心で一喜一憂します。旬な人や自分の好きな人だと、何かの運命を感じます。たいていは体格や年齢で適当に決められるのですが。

カメリハの目的に、「加減を確認する」ことがあります。トークテーマのふり方など、進行上の話が中心ですが、まれに体を張る系の”実験台”の例もあったようです。本番までに誰かが試さなければいけないわけで、運がよければ(?)一番芸人らしい経験ができるかもしれません。

ランキングライブ出る&挨拶

当然、本業はライブに出ておもしろさで評価してもらうことになります。多くの事務所のライブはランキングシステムであり、芸歴1年目はランクの一番下からスタートします。

以前の吉本の無限大ホールだと、芸歴によって大楽屋の荷物の置く位置が決まっていました。1年目は入口すぐで、芸歴を重ねるほど奥の広いスペースが使えるという要領です。

ところが、僕が現コンビを組んだ2年目のとき、3期上の相方は既に5年目でした。相方が気にせず奥に荷物を置くので、僕も戦々恐々しながら奥に荷物を置いていました。ライブで一番緊張するのがこの瞬間でした。

挨拶も重要です。挨拶もされていない共演者とは関係性が作れないからです。1年目は全先輩芸人に挨拶するよう言われ、ビクビクしながら、先輩のネタ合わせやトイレの合間を見て挨拶します。MCさんが楽屋入りすると、長蛇の列を作ります。

これが2年目以降は、先輩方に挨拶しつつ、自分も挨拶をされる側になります。1年目が自分に挨拶するタイミングを窺っている視線が分かるわけです。そこで、“誘いの隙”を作るのですが、1年目はビビってなかなか来ません。そうやって無駄にトイレを我慢して待っているとき、「あー、先輩になったんだなぁ」と感じたものです。

まとめ:先輩&スタッフさんにとにかく知られる

先ほどの挨拶もそうですが、とにかく顔を売ることが一番の仕事です。先輩やスタッフさんに対して、顔合わせや自己紹介の場は用意されません。何もしなければ知られないままで、仕事にもつながりません。

芸人によくあるのが、喫煙所で仲良くなるケース。喫煙所なら変に気まずくならずに会話できますし、なぜか、上のクラスに行くほど喫煙率が上がる気がします。まぁ、僕はタバコも吸いませんし、上のクラスでもありません。

バイト先で先輩芸人と仲良くなるのもよくあるケースです。芸人には、急なシフト変更に対応してくれる「理解あるバイト先」が必要で、そこに往々にして他にも芸人がいるからです。バイトの縁からライブに呼んでもらえることもよくあります。まぁ、僕はいつも他に芸人のいないバイト先でしたが。

「人の縁」が何よりの財産になります。ひいきだと言われても、影響力がある以上、勝手の分かっている人にしか仕事を任せられない世界です。そして、「面白さは後からついてくる」という言葉を、僕はまだ信じています。

執筆:東大卒芸人 山口おべん

1988年生まれ。私立開成中学校・高等学校、東京大学文学部言語文化学科言語学専修課程卒業。W東大卒コンビとして「アメトーーク!」など番組出演。 2020年1月から、コンビで自身のみエージェント制を選択。芸人になった動機はいくつかあるが、一番は「モテたかったから」。