powered by 賃料6万円以下専門店「部屋まる」

地方芸人の永遠のテーマ「東京進出」のベストなタイミングとは?

連載
公開日:2021年3月22日

執筆:東大卒芸人 山口おべん

1988年生まれ。私立開成中学校・高等学校、東京大学文学部言語文化学科言語学専修課程卒業。W東大卒コンビとして「アメトーーク!」など番組出演。 2020年1月から、コンビで自身のみエージェント制を選択。芸人になった動機はいくつかあるが、一番は「モテたかったから」。

いつ東京進出すべきか?

地方で今から芸人になろうとしている人には、3種類の人間がいます。

①養成所の段階から東京に出る人
②所属になってすぐ東京に出る人
③地方で売れてから東京に出る人

です。

これは意外と冗談でもなく、地方芸人にとって常にちらつく言葉が「東京進出」です。そして、これを書いている僕「山口おべん」はそう、生粋の東京芸人です。そこはごめんなさい。

結局、どのタイミングで東京進出するのがベストなのでしょう?
それぞれにメリットとデメリットがあるので、今回は一つずつ紹介していきます。



①「養成所の段階から東京」のメリット


よく言われるのが、「地方で売れてから東京で売れ直すのは二度手間」という話。その意味では、芸人の第一歩から東京を選ぶのが最も効率的です。

確かに、地方で築いた評価・人脈・ファンは持ち運べません。また、売れるために全国区の番組に出るにも、地方だと交通費がかかるためキャスティングで不利です。

東京は、お笑いライブで他の芸人さんのネタを勉強したり、情報の最先端を追いかけたりするには最適。芸人に理解のあるアルバイト先が見つかりやすいことや、有名な先輩芸人さんと接点を持ちやすいことも大きいです。

あと、東京はめぼしい芸人事務所だけで10以上ありますが、大阪は吉本と松竹の2強、他は吉本1強です。もし入りたい事務所がある場合、そもそも上京するしかない場合もあります。ちなみに僕は、吉本に入りたいと相談された場合は全力で止めることにしています(半分は愛情表現です)。

②「所属になってすぐ東京」のメリット

中途半端な芸歴で上京すると、劇場に知り合いゼロなのに挨拶も行きづらく、楽屋の小道具に馴染んでいる方をたまに見かけます。進出するなら早い時期が良く、東京の人脈だけで見るなら①の養成所からに越したことはありません。

メリットは、「どちらの様子も知っていること」。同じ事務所でも地域ごとにシステムが異なり、どちらも知っていれば良いとこどりできます。また、東京芸人に顔が利く一方、東京で会う同郷の絆は強いです。「元札幌よしもと」や「元福岡よしもと」には、僕らに割って入れない結束力があり、うらやましいです。

2014年になんばの「5upよしもと」が「よしもと漫才劇場」に変わったときには、芸歴が浅くても東京移籍するコント師が続出しました。そういったやむをえない事情の場合もありますが、環境の変化はチャンスにもなります。

③「地方で売れてから東京」のメリット

東京には芸人が1万人いると言われます。比べると、地方はライバルが圧倒的に少ないので、TVに出やすいです。TVは実際に経験し、失敗して勝手が分かってくるので、これはかなりのアドバンテージ。

特に関西は芸人の出る番組が多く、街全体にお笑いの土壌があります。京都の祇園花月という劇場の呼込みをしたことがありますが、皆さん一旦興味を持ってくださるので、チラシが飛ぶようにハケました。地域柄、クーポンと勘違いしている節もありますが。

また、やや体感的な話ですが、地域ごとに芸風が違います。たとえば関西は、正統派のべしゃりが受け「M-1は大阪が強い」一方、リズムネタや奇抜なネタの人も定期的に現れます。「コウテイ」「8.6秒バズーカ」「フースーヤ」あたりは、東京吉本の人間には「このネタ作れないなぁ」という感じなのです(実は、東京吉本から他事務所に移籍した方には奇抜な人が多いのですが)。

地元の応援ほど結束の強いものもありませんし、上手くいけば大きな力を手にする可能性があります。

どんな人がいる?


それぞれのパターンについて、どんな人がいるのか見てみましょう。

あえて東京を選ばれたかはともかく、福岡出身の「ロバート」秋山さん・馬場さん、京都出身の「チョコレートプラネット」長田さんなど、西日本出身者のNSC東京入学も例年多いです。別々の出身地の人間がコンビを組める点も、東京の特徴と言えます。

「3時のヒロイン」さんは芸歴が3人バラバラですが、2人がNSC大阪です。いち早く東京に来られたので、すっかり東京芸人に馴染み、芸風も東京っぽさに関西のキレが融合しています。

「かまいたち」さんや「霜降り明星」さんなど、売れてからの東京進出で成功する方も根強く存在します。ロケのテクニックは関西ローカルの経験値でしょう。昔の関西芸人は「関西弁は怖い」と言われ苦労されましたが、今はむしろ「千鳥」さんのように方言が武器になりますから、無理に東京に染まる必要もありません。

「東京→地方」の逆パターンも。そして今後…

東京所属から地方移籍する例も、多くはありませんが見かけます。理由は様々ですが、「何か変えなければ」「埋もれてしまう」という思いを根底に感じます。

これを大々的に形にしたのが、吉本の「住みます芸人」です。地域に根付いた活動で貢献しようというプロジェクトで、芸人側から見ると一発逆転のチャンスなわけです。当初は47都道府県でしたが、すぐ調子に乗って「住みますアジア芸人」や「農業で住みます芸人」に拡大するところが吉本の良い所。地元では皆さんかなり親しまれ、お笑いだけで生計が立てられるようです。

そして今後、リモートの流れがどれだけ浸透するか。YouTuberでは「東海オンエア」さんのように、ご当地にいながらスターになる例が既にあり、芸人もそもそも東京進出しない選択肢も増えるかもしれません。そのうち、北海道と沖縄に分かれてリモート漫才をするコンビが現れたっておかしくはありません。

それでも、今の業界の中心は間違いなく東京です。東京はエントリー自由のライブも多いですから、一度肌で感じて、それから自分に合った活動を選ぶのがよさそうです。

執筆:東大卒芸人 山口おべん

1988年生まれ。私立開成中学校・高等学校、東京大学文学部言語文化学科言語学専修課程卒業。W東大卒コンビとして「アメトーーク!」など番組出演。 2020年1月から、コンビで自身のみエージェント制を選択。芸人になった動機はいくつかあるが、一番は「モテたかったから」。