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なぜピン芸人に一発屋が多いのか?一発屋となってしまう理由とピン芸人の本質

連載
公開日:2022年7月20日

執筆:吉松ゴリラ

SHUプロモーション所属。宮崎大学大学院主席。もともとコンビで活動していたが、解散後ピンへ転身。「激レアさんを連れてきた。」「新春おもしろ荘」「ガキの使いやあらへんで!」「ウチのガヤがすみません!」など多数出演。

売れたピン芸人の中には、世間に一発屋と揶揄される芸人が多く存在する。
ではなぜ、ピン芸人は一発屋となってしまうのか。
それは、「コンビ芸人に比べ、ピン芸人が不利である」という理由に他ならない。

本コラムでもピン芸人の有利不利については簡略的に紹介するが、もし詳細に興味がある方は下記の2記事をご参考ください。
▶︎「現役ピン芸人が語る!ピン芸人のメリット・デメリット、コンビとの違い」
▶︎「最近のお笑い界のピン芸人の事情・立ち位置、コンビとの売れ方の違い」

今回のコラムを読んで頂ければ、
・ピン芸人の不利な所一覧!
・一発屋芸人になる理由!
・ピン芸人の本質!
を、ご理解頂ける。

是非、最後までご一読頂きたい。



とりあえず前提としてこれ知っとけ!ピン芸人の不利な所一覧

先述のお約束通り、簡略的に「コンビ芸人に比べ、ピン芸人が不利な所」を一覧表記。
詳細を知りたい人は、先述のコラムをご一読の程。

【コンビ芸人に比べ、ピン芸人が不利な所】
・ネタのパターンが制限される
・エピソードトークのパターンが制限される
・ネタ番組的にはコンビ芸人の方が使いやすい
・トーク企画系番組的にはコンビ芸人の方が結果を残しやすい …etc

ピン芸人は「ネタのパターンが制限される」からおもしろいネタが作りづらく、「エピソードトークのパターンが制限される」からエピソードトークの量を十分に準備できず、「ネタ番組的にはコンビ芸人の方が使いやすい」からネタにコンビ以上のインパクトを求められ、「トーク企画系番組的にはコンビ芸人の方が結果を残しやすい」から現場に赴く時には命を懸ける・・という、ヘレンケラーもビックリの四重苦。

これは極々一部のデメリットであり、細かく見積もっていったらヘレンケラーが卒倒するレベル。

結論はこれ!一発屋芸人になる理由

少し前まで、お笑い氷河期と呼ばれる時代が約10年ほど続いた。
その時代はTVのネタ番組自体が少なく、番組サイドもオファーすべき芸人を厳選。

結果「ピンでもコンビでもトリオでも、とにかく一番おもしろいヤツを呼べ!」というジャッジがなされ、メディアに出たいピン芸人はコンビやトリオ相手にネタで勝たなければならなかった。

上述の通り、ピンはかなりのハンディキャップを抱えている。
そのハンディキャップを乗り越えるため、ピン芸人は下記のようなネタで勝負に出る。
そしてそのネタの選択肢自体が、一発屋を生む下地となっている感じ。

おれはこういう変人だ!インパクトの強いキャラのネタ

「インパクトの強さ」はそのインパクトが強ければ強いほど、早くお腹いっぱいになってしまう。
みなさんがイメージする一発屋芸人の多くは、このジャンルの芸人ではないだろうか。

また、このようなキャラは自分本来のキャラクターとは別人格で作られる場合が多い。
なぜなら持ち時間2分弱でネタをする若手芸人にとって、中途半端に説明が必要なキャラクターはキャラとなり得ず、「一目でこいつ変だ!」と分かるようなキャラが必要だから。

なので、もし自分本来のキャラクターから作られていたら、そいつはガチの変人。
そんな生粋のガチ変人が、楽屋にはいないと信じたい。

そうすると、自分本来のキャラクターなら生きてるだけでエピソードやネタも生まれるが、別人格の場合一度机に向かってネタ出しをする必要がでる。
このネタが大量消費される時代に、他人格一生分のネタを大量生産できる訳が無く、徐々にキャラエピソードを作るのがしんどくなる。

しかし、「一発屋芸人」と聞いてイメージされるというのはまさにインパクトがあり、みなさんの記憶に残っている証拠でもある。
みんなの記憶に残っているこのタイプは地方営業などに行っても喜ばれ、時と場所を変え、あちこちで活躍している場合が多い。

これが自分の代名詞!覚えやすいワンフレーズに狙いを絞ったネタ

耳心地の良いワンフレーズに狙いを絞ったネタ。
ネタ構成も全て、そのワンフレーズを活かすネタ構成になっている。

1ネタの中に軸となるワンフレーズを大量に入れ込み、複数回聞かせる事でその印象を植え付ける。
しかしこれ、印象は残るがやはり「ワンフレーズ」。

メインどころがたった一言であるので、飽きられるのも早い。
その後パターンを作り変化を加えるが、元々のワンフレーズが至極の一品である場合が多いため、上手くいかない場合が多い。

至高のラフ&ミュージック!耳に残る音ネタ

キャッチーなフレーズにポップなテンポでお送りされる、「音ネタ」。
常に一定の需要があり、芸人間でバズりやすいジャンルと認識されている。

これは上述した「ワンフレーズを狙いにいったネタ」と併用して使われる場合が多く、やはり同様の理由から飽きられるのも早い。
しかし、「あるあるネタを言って、締め言葉としてワンフレーズを言う」パターンも多く、手前のあるあるネタを変えていけば息も長くなる。


ピンネタをしたいならこれを知れ!ピン芸人の本質


上述した内容は一発屋を生む「結論」であり、実は「本質」では無い。
じゃあその本質は何かっていうと、下記内容である。

コンビ芸人が「やらない事」をやる!それがピン芸人

「やれない事」ではなく、「やらない事」である事がミソ。

なぜなら基本的に「ピン芸人にできて、コンビ芸人にできない」というジャンルは存在しない。
ちなみに「コンビ芸人にできて、ピン芸人にできない」というジャンルは、数学の神ノイマンが失禁するレベルで存在する。

ピン芸人がおこなうほとんどのコントは、相手役がいた方が見やすい。
そしてほとんどの漫談も同様。ピン芸人が使う「フリップ」や「相手役の音声」などは、相方となる「ボケ役」「ツッコミ役」を道具を使いどうにか補完しようとしたピンの苦悩の表れ。

改めていうと「ピン芸人にできて、コンビ芸人にできない」というジャンルは存在しない。
「じゃあコンビと同じジャンルで戦えばいいじゃん!」となると、そう簡単な話でもない。

先程述べたように、「コンビ芸人にできるジャンル」は、コンビでやった方が見やすく・分かりやすく・おもしろい。
これは絶対であり、同ジャンルでピン芸人が闘うと、言い方は悪いが下位互換になってしまう。

そういうネタをライブシーンでおこなう分には全く問題ないのだが、ことTV出演を見据えた場合、メディアの王様にとって下位互換の芸人など必要ない。
同じような事をやるなら、よりおもしろいコンビ芸人の方をオーディションで通すのは必然。
誰だってそーする。ぼくだってそーする。

そうするとTV出演を果たしたいピンがおこなわなければならないジャンルは、「コンビ芸人がやらない事」となる。
結果、次世代のカリスマを志すコンビ芸人が、「そんな事する為に芸人になったんじゃねぇ!」と毛嫌いする裸で奇声をあげる芸人や、「そんな所にそんなに力入れるか?」という大量の大道具を持ち運ぶピン芸人が誕生する。

どうしても、偏りのある芸風になってしまうのだ。

ピン芸人のネタには上手さ以上に必要なものがある

芸人の芸を評す時「コンビ芸が”上手い”」という言葉はあるが、「ピン芸が”上手い”」という言葉は無い。
ピン芸の評され方は常に「おもしろい」の価値観一択であり、これはピンのネタのおもしろさに「上手さ」がそれほど関わっていない事を示している。

いや当然ピン芸人にも演技力や台本作成力等の能力が必要なのだが、若手芸人レベルでいうと「コンビに比べて”上手さ”が、”おもしろい”に関わっている割合が低い」という印象。

例えばコンビ10組を並べて審査した場合、技術的な上手さは非常に目立つ。
下手なやつはそれだけでハジかれるほど露骨に上手い下手が分かるし、それがおもしろさに直結する。

しかし、若手ピン芸人10組を並べて審査した場合、結果は少し異なる。
技術的な上手さ以上に、その芸人のキャラであったり発想であったり、とにかく他の要因でおもしろさが変わってくる。

中途半端な技術を、インパクトや個性が超えてくるのだ。
そうすると、技術の研鑽をモチベーションにするのと同様、インパクトや個性にも力を入れるピン芸人が増えてくる感じ。

世間一般の認識を、整えきれていない

これはピン芸人が、世間の認識を整えきれていない。
結構な数のピン芸人が「おれが売れたら整えたらぁ!」と、どげんかせんといかんと息巻いてる課題。

「ピン VS コンビ」というのは、ボクシングで「1VS2」で闘うレベルで有利不利が発生する。
そんなの世界王者だろうと、世界ランカー10位と11位に同時にかかってこられたらフルボッコにされる訳だが、しかし現在世間は「それでも負けるピンが悪い」という認識。

天才が集まる芸人間において、更に「天才」と称されるピン芸人を引き合いに、そのレベルをピンの平均値とされている。
「天才達が認める天才」が平均値となる訳で、それではほとんどのピン芸人が生き残れる訳がない。

例えばピン芸人最強を決めるR-1グランプリは「売れてるコンビの芸人だろうと実力派のコンビの芸人だろうと、タイマン勝負ならおれが一番強い!」を決める大会。
最強の「個」の芸人を決める非常に価値ある大会なのだが、その王者がM-1やキングオブコントに比べてそこまで世間に評価されていない。

「王者になって評価されないなら、どう評価されたらいいんだ!」とネタにストイックなピン芸人は、R-1の季節が来る度絶望をする。
そして芸歴を重ねるごとに、服を1枚づつ脱いでいくのがピン芸人。


まとめ

今回は「なぜピン芸人に一発屋が多いのか」というテーマでお話しさせて頂いた。

誤解しないでほしいのは、このような理由を言い訳にして腐っているピン芸人はあまりいない。
みんなこの現状に立ち向かうべく、ストイックにネタを作りトークスキルを磨いている。

また「一発屋芸人」というと世間一般の印象はそんなに良くないと思うが、こと芸人界において「一発当てる」というのは至難の技であり、高校球児が甲子園のマウンドに立つ程度の難易度は余裕である。

芸人の世界では「一発屋で終わった」という認識ではなく、「一発当てた」芸人として一定の敬意を払われるのが常である。
是非ピン芸人を目指す方がいれば、本コラムを参考に闘い方の戦略を練って頂きたいと思う。

このコラムがみなさんのお役に立つと幸いだ。
ご一読、ありがとうございました。


執筆:吉松ゴリラ

SHUプロモーション所属。宮崎大学大学院主席。もともとコンビで活動していたが、解散後ピンへ転身。「激レアさんを連れてきた。」「新春おもしろ荘」「ガキの使いやあらへんで!」「ウチのガヤがすみません!」など多数出演。