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コロナウイルスによるお笑い界への影響!高まる劇場配信への期待

連載
公開日:2020年4月17日 更新日:2021年1月5日

執筆:東大卒芸人 山口おべん

1988年生まれ。私立開成中学校・高等学校、東京大学文学部言語文化学科言語学専修課程卒業。W東大卒コンビとして「アメトーーク!」など番組出演。 2020年1月から、コンビで自身のみエージェント制を選択。芸人になった動機はいくつかあるが、一番は「モテたかったから」。

ニュースキャスターは口を開けばコロナの話題です。

お笑い界も影響は少なくありません。営業・イベントの自粛が相次いでいます。
劇場でのライブなど、まさしく「閉鎖空間での密集」ですから。
え?密集と呼ぶほど元々お客さんがいないライブもある?その発言、自粛してください。

どうも。東大卒芸人の山口おべんです。好きな言葉は「小笑い」です。
今回のコロナショックで一体どんな影響があるのか、僕は吉本興業エージェント契約ですから、吉本の事情を中心に見ていきたいと思います。



吉本興業と僕に発生したコロナウイルスの具体的な影響

吉本では、3月2日から全国の劇場公演を中止・延期し、再開のメドは立っていません。
劇場は学生のお客さんも多く、春休みはイベント公演も多数予定していましたから、かなりの痛手です。
何より、ほとんどの若手芸人から劇場の活動をとったら、バイトと親不孝しか残りません。由々しき事態です。

営業はライブ以上に多くの人のイメージに関わるので、早くから中止になる例が多かったです。
3月、僕には3つ営業の予定がありました。
うち一つは3月11日に合わせ、地球環境のあり方について考えていただくイベントでした。
何か起こってしまうとシャレにならないので、当然中止になりました。

僕は毎週、YouTube撮影のために吉本本社(東京本部)に行っていますが、本社も人が少なくなりました。
以前は会議室を予約しようにも埋まっていて、しかも予約だけで使われていないパターンも多かったのですが、今は楽々予約できる状況です。
…と書いていたら、都の外出自粛要請を受け、とうとう本社も使用禁止になりました。

コロナウイルスはお笑いの仕事以外にも影響している

あと、意外と困るのがTwitterなどSNSでの発信です。
普段よく見かける芸人のツイートは「○○と飲みに行きました!」「話題の映画/ライブに行きました!」「告知です!」などです。
今、都心への外出は褒められたものではないですし、告知はそもそも内容がありません。
唯一、何の影響もなくタイムラインに上がってくるのは「1日1ギャグ」です。

また、芸人は何か「頑張っている部分」が見えないと応援してもらえないと、僕は考えています。
僕の場合、名立たるクイズ芸能人の方々との「クイズ勉強会」に毎週参加させていただき、クイズを武器として磨くとともに、その発信にも大きな意味がありました。
しかし、この状況では会は開けません。芸能人がプライベートで4時間ひたすらクイズをやって感染したら笑えません。
それにより、僕のTwitterのいいねの9割が失われました。

劇場配信への期待

このように、今回のコロナショックが良かったとは全く思いません。
しかし、お笑い界にとって一つの良い転機になるかも、と僕は考えています。
それは、劇場配信を行う契機になっているからです。

劇場休止の4日後、3月6日から、吉本は1日に9個の時間枠で無料配信を始めました。
朝から晩までを全国の劇場で分担し、舞台上からネタや簡単な授業をお届けしています。
(3月26日以降、関東近郊の劇場からの配信は一時自粛しています)
過去にも何らかの限定的な形での配信はありましたが、登録者35万人超の吉本興業チャンネルでここまで大々的に配信されたことはなかったです。
これは大きな変化です。

かつて、世の中にYouTuberが登場したとき、多くの芸人はそれをバカにしました。
素人臭いし、まだまだTVが強いと思われていました。
それから数年で、様々な動画媒体が我々の生活に根付き、何を知るにも第一歩目として動画が不可欠になりました。
一昨年頃からは有名芸人のYouTube参入も相次ぎました。
しかし、劇場というお笑いの総本山には、どこか保守的な面が存在しました。

実は、コロナショック以前から、お笑いネタが見られるアプリの登場や吉本内のデジタル活用の動きはあったようです。
それが、コロナをきっかけに急ピッチで整備された。言葉を選ばず言えば、「質が多少悪くても早くリリースする大義名分」を得たのです。
劇場が大きく変わるチャンスは今なのです。

お笑いの劇場にくるお客さんはネタを見ない?

唐突ですが、「ネタ中にスマホをいじるお客さんがいて周りの迷惑になる」という芸人のツイートを定期的に見かけます。
これはお客さんも悪いですし、そうさせてしまう芸人側も悪いです。

しかし、そもそも「お客さんは劇場にネタを見に来ている」という考えが間違いだと思うのです。

考えてみてください。
今の時代、単にネタを見たければYouTubeで十分です。むしろレベルが高いです。
よほど世の中のネタを見尽して新ネタに飢えているなら話は別ですが、そんな深夜番組に出られそうなマニアさんはいないでしょう。

ライブの臨場感というのはあるかもしれません。
しかし、若手のライブはお客さんが少ないと笑い声が目立ち、周りを気にしてあまり笑わない常連さんも多いくらいです。
芸人がお客さんにお題を求めたり話しかけたりすることがあるので、逃げるように客席は後ろから埋まっていきます。

では、お客さんは何を求めてくるのか。ずばり「出待ち」です。
チケット代1000~1500円で、芸人本人と会話ができる。
それも、ネタの感想を言ってくれる人もいますが、たいていは全く関係のない日常の出来事の話です。芸人はリアクションもするし話を面白くもする最高の聞き役です。
僕は、劇場を健全なホストクラブだと思っています。

劇場のランク分けの秘密

劇場で上に行く方法は、あらゆる芸人が最も知りたいことです。

吉本社員さんのよく言う通説では、
「売れている人のネタにはある程度共通する型がある。その型の通りネタを作り、知り合いを数十人呼べば、上から2番目のランクまでは誰でも上がれる」そうです。

また、あるスタッフさんが言っていたのは、
「ランクの上下で、やっているネタの内容はそんなに違わない。違うのは、上にいる人は発声や見せ方の基本がしっかりしている」そうです。

これはどちらもかなり正しいです。
しかし、僕は最も重要な要素は別にあると感じています。

あるとき、相方と話していてハッと気づいたのですが、劇場のランク分けが上に行くほど塩顔で、逆に下に行くほど顔が濃いのです。
要は、ランク上位になれるのは「ファンであると公言して恥ずかしくない芸人」「ファンである自分のクラスカーストも上がるような芸人」であって、それには「周りに受け入れられやすい見た目」も重要になるのです。

お笑いは人気商売ですから、これが理不尽だとは思いません。
ただ、「劇場はネタを磨くためにある」と思っている芸人との間には、確実にミスマッチが生じています。

劇場配信の可能性

先日、僕も劇場配信に出演させていただきました。
現役東大生たちが配信授業を行っている「スマホ学園」さんとのコラボで、考えてきてくれた漢字の問題を僕はその場で解けば良いという、非常に得な役回りのお仕事でした。

問題を解く早さを視聴者コメントと競ったのですが、驚くほど早く、そして多くの方にコメントを頂きました。
劇場のキャパシティーや一方通行性を考えると、これは画期的なことです。
聞けば、小学生のお子さんが楽しんで見て、コメント入力を親御さんが代わりにしているケースもあるそう。
裾野の広がりを感じると同時に、一緒に見ている家族や友人とのコミュニケーションを誘発する効果は、私語があまりできない劇場にはないものです。

こうした要素を取り込んで、より多くの人により純粋にネタを評価される研鑽の場に、配信はなりうると思うのです。

ネタの配信はお客さんの笑い声がない分スベって見える、という意見もあります。
それでも、R-1グランプリ決勝の無観客は異様でしたが、僕はめちゃくちゃ笑いました。
むしろ、dボタンとTwitterの視聴者投票のおかげで、とんでもない人数の人が笑っているんだなとさえ感じました。
この短い期間に吉本興業チャンネルの登録者数は何万人規模で増えています。それが何よりも意味のあることではないかなと思います。

もうお笑いの劇場は必要ない?

これまでのお笑いは、劇場での活動を軸に成り立っていました。
ネタは「名刺代わり」で、劇場でネタを磨く中でトーク力や言葉の引き出しも増えるというのが基本的な教えでした。
しかし、今は劇場で評価されずに売れる方法もたくさんあります。
売れればネタをやらなくなる方も多いです。

もしかしたら、物理的な劇場は必ずしも要らないのかもしれません。
ただ、たとえ形を変えようと、芸人たちの研鑽の精神は受け継がれていってほしいなと思います。

執筆:東大卒芸人 山口おべん

1988年生まれ。私立開成中学校・高等学校、東京大学文学部言語文化学科言語学専修課程卒業。W東大卒コンビとして「アメトーーク!」など番組出演。 2020年1月から、コンビで自身のみエージェント制を選択。芸人になった動機はいくつかあるが、一番は「モテたかったから」。