お笑い芸人に必要な「アドリブ力」ウケる秘訣と鍛え方教えます!
執筆:東大卒芸人 山口おべん
1988年生まれ。私立開成中学校・高等学校、東京大学文学部言語文化学科言語学専修課程卒業。W東大卒コンビとして「アメトーーク!」など番組出演。 2020年1月から、コンビで自身のみエージェント制を選択。芸人になった動機はいくつかあるが、一番は「モテたかったから」。
TVを見ていて、「あれぐらい自分にもできそう」と思ったことのある方、多いんじゃないでしょうか。
僕もかつてはそんな一人だった、芸人の山口おべんです。
実際TVに出て分かったのは、話してなくても顔の筋肉が攣ることがあるということです。
とはいえ、アドリブにもノウハウがあります。
それを知るだけでも打率に大きな差が出ると、後々気づきました。
アドリブ力のある人なら、ここで「へぇー、じゃああなたはアドリブ強いんですね?」と訊くかもしれません。
それに対して、僕はアドリブでこう答えます。
「勉強を教えるのが上手い先生が東大卒とは限らないよね?」と。
まあ少なくとも、昔は空気の読めなかった僕が、今は場を回すことが多くなりました。
この場もスムーズに次へと進行することにします。
目次
対立構造を作る
某人気番組のプロデューサーさんがおっしゃったと言われる教えが、「1対みんな」の対立に持ち込むこと。
漫才やコントでは、対立を基本軸とすることが多いです。
立場や意見が違う者同士が接触することで、「ズレ」を生み、笑いが生まれるからです。
ピンネタでも、上手い人は「自分対お客さん」や「自分対フリップ」の構図を作っていることがあります。
アドリブでも、これは同じです。
むしろ、台本がないことは、追い詰められて自然にボロが出る「口実」になります。
最近のバラエティーでは露骨な対立は減っていますが、局所で小さな対立を作っています。
それでも波風の立たない、マイルドな言い方やフォローが上手なMCさんが活躍されている印象です。
結果を決めつける
何かをやるときには、どちらかの結果に思い切り寄せておくと良いです。
たとえばクイズなら、答える前にすごく「もっともらしい理由」を言っておきます。
すると、正解するとかっこいいです。
不正解するとめちゃめちゃダサくて、めちゃめちゃイジられます。
単に答えだけを言った場合、正解でも不正解でも、何の意外性も裏切りもありません。
あらかじめ自信のある様子で決めつけておくだけで、どっちに転んでもおいしくなるわけです。
ちなみに、クイズの例で一番ダサい(=おいしい)のはどういうパターンか分かりますか?
それは、正解なのに理由が的外れだった場合です。
演劇の「Yes And」
演劇の世界で、エチュード(即興劇)のテクニックに「Yes And」があります。
たとえば、AさんがBさんに「一緒に靴を食べよう」と提案します。
このとき、どんな内容であってもBさんは否定してはいけません。
「いいね。じゃあ、煮て柔らかくしておくね」という具合に、受け入れたうえで情報を一つ足します。
それに対してAさんも受け入れ、情報をまた一つ足す。
これを繰り返します。
現実世界に忠実すぎると、何も起こらないまま終わってしまいます。
否定で芽を摘むのではなく、ちょっとずつ逸脱を積み重ねる。
すると、気づけば「あるある」の延長線上の感覚で「なしなし」の話ができるのです。
なお、突飛な例に限らず、このテクニックは会話術や発想法としてもよく紹介されます。
「今日は暖かいですね」「そうですね。上着を着てくるか迷うくらいでしたね」という具合で、相手は自分が話したいことを続けられるので自然に盛り上がります。
ツッコミなら「Not Or」
ボケやイジリのとき、話を広げるときには「Yes And」で良いのですが、ツッコミには一工夫が必要です。
僕は1~2年目の頃、先輩方のボケに食らいつこうと必死に「なんでだ」「違うでしょ」と返していました。
するとあるとき、先輩に「それはツッコミじゃない」と言われました。
意味不明でした。
後々気づいたのが、僕は全ての逸脱の芽を摘んでしまっていたことです。
とはいえ、あからさまなボケを放置するのも不自然ですし、ツッコミがあることでお客さんは「ここはボケだ」と安心して笑えます。
そこで有効なのが「Not Or」の発想。
否定の言い方をとりながら、もしくは一度否定してから、「~になるわ」「~じゃないんだから」とボケを全力で掘り下げるのです。
あくまで仮定として話すことで、常識人の立場でもトンデモの話ができます。
この「Or部分」を広げるやり口こそ、個人のキャラクターが色濃く出ます。
たとえツッコミ、ノリツッコミ、優しく諫めるようなツッコミ。
個人的に好きなのは、褒めながらやんわり否定を匂わす言い方。
こういうところにも、中二病って出るんですね。
間が空いた後のさばきを用意する
全くスベらない人はいません。
他人のボケを誰も扱いきれず、沈黙になることもあります。
しかし、我々はその状態に感謝しなければなりません。
緊張が緩和したときに笑いになる、その緊張を作り出してくれているのです。
一歩引いて、状況を俯瞰で言ってみましょう。
少しまどろっこしく言う方が、裏切りがあって上手くいきます。
極論を言うなら、「褒める」か「殴る(と言うだけ)」のどちらかで大体いけます。
「人ってこんなに綺麗にスベれるんですね」「今なら殴っても許される気がする」のように。
以前、同期に「その辺のマッチョ連れてきて殴ってもらうわ」とつっこんだら、彼が山手線でずっと褒めてきて逆に殴られた気持ちになりました。
まとめ
笑いは、自分一人より誰かと協力することで圧倒的に生まれやすくなります。
今回書いた技術も、相手に話したいことを話してもらったり、方向性を選びやすくしたりすることがベースになっています。
今の時代、ネタよりトークの機会が多いですし、配信などアドリブで発信する手段も増えています。
何か1つでも得意な形を見つけて、人とのコミュニケーションに自信を持ってもらえれば幸いです。
執筆:東大卒芸人 山口おべん
1988年生まれ。私立開成中学校・高等学校、東京大学文学部言語文化学科言語学専修課程卒業。W東大卒コンビとして「アメトーーク!」など番組出演。 2020年1月から、コンビで自身のみエージェント制を選択。芸人になった動機はいくつかあるが、一番は「モテたかったから」。