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【現役芸人の体験談】お笑い芸人になる時の親への伝え方、親の反応とは

連載
公開日:2021年9月7日

執筆:東大卒芸人 山口おべん

1988年生まれ。私立開成中学校・高等学校、東京大学文学部言語文化学科言語学専修課程卒業。W東大卒コンビとして「アメトーーク!」など番組出演。 2020年1月から、コンビで自身のみエージェント制を選択。芸人になった動機はいくつかあるが、一番は「モテたかったから」。

「親」。
このテーマを書くのは、少し勇気が要りました。

なぜなら、うちの親はこの連載をチェックしており、読んだら鬼のように連絡が来るに違いないからです。念のため、今から着信拒否の設定方法を確認しておきます。

さて、これから芸人になろうという人には、「親に反対されるんじゃないか」と不安を抱く人も多いでしょう。どこまで不安ならそうなるのか分かりませんが、僕の周囲で、芸歴10年目でまだ親に芸人だと言っていない人もいます。

芸人活動の舵を握るのは、自分よりむしろ親かもしれません。僕の実際の経験を例にしつつ、一緒に考えてみましょう。

芸人にとって親とは

お笑いライブで、出演者が「今日は親が観に来ている」と話すのをよく聞きます。芸人活動を応援してくれる親御さんは意外に多いのだと実感します。

もちろん、芸人が親をライブに呼ぶのは親孝行…ではなく、チケットノルマや投票に貢献してほしいからですが、気を遣わず呼べたり遠慮のない感想が聞けたりするのは貴重な存在です。

数年前、『ロンドンハーツ』の「これを機に売れて欲しい!!売れてない芸能人の親はどう思ってる?」という企画で、約50組の芸人親子・アイドル親子が集められた収録に参加しました。

このとき、特にレインボー池田とぺこぱシュウペイさんがお母様の溺愛(?)がすごかったのですが、今やどちらも全国区で活躍中。親の応援は売れるための大切な要素だと言って過言ではないでしょう。

うちの親も、TVやコラム、YouTube、Twitterなど見られるものは全てチェックしています。大切な告知があるときは、本人以上に熱心に周囲に宣伝してくれます。ライブにもちょこちょこ来てくれます。なぜか自信のないネタのときに限って来たがるのだけは不思議ですが。

僕も最初はお笑いに芸人になることを反対された

芸人活動に好意的に見えるうちの親ですが、最初から賛成だったわけではありません。

僕の場合、中学の頃に「歌手になりたい」と毎日言っていたので、芸能の道に進むことについては親が半ば根負けしていました。それでも、大学生のある日「芸人になる」と言ったときは猛反対されました。今さら何が違うんだろうと思いましたが、親は育て方を間違ったと本気で悩んだとか悩んでないとか。

といっても、このとき僕は大学院に落ち、急遽留年して始めた就活も30社全て落ちたところ(どちらも籍だけ置いて芸能をやりたかった。そりゃ落ちます)。何度かの家族会議の熱弁の末に認めてもらいましたが、実のところ、他の選択肢がネタ切れしたというのが正しいと思います。

何なら、芸人になってからも長らく、公務員採用や資格試験の情報をスヌーズ機能のように定期的にささやかれました。心から応援はしつつも、将来については不安が勝るという、複雑な心境のようでした。

親はなぜ反対する?

芸人になると伝えたとき、反対されたら、むしろ「ああ、うちの親はちゃんとしている」と安心していいです。

なぜなら、理由がイヤほど思い当たるからです
・収入が不安定
・賞味期限が短い
・常に誰かの目がありプライベートがない
・ヨゴレや人に嫌われるようなことをする
・人脈など大人の事情が優先される

一番は、生活が安定しないことへの懸念でしょう。売れるまでは食えず、売れるのはほんの一握りで、売れても翌年には消えるかもしれない。書いていて自分でもなぜ芸人になったのか疑問に思えてくるほどです。

ただ、おそらく問題の根本は、たいてい本人は「自分は売れるから関係ない」と思っていることです。仕事でシビアに評価されたり、それでお金を稼いだりする中では、「自分って思ったよりすごくない」って瞬間は誰しも訪れます。親は、お金を稼ぐ先輩としてそれを経験しているからこそ、甘い考えに待ったをかけるのではないでしょうか。

「もし芸人を辞めたら」の話をきちんとしよう

僕は勢いで行動するタイプですが、芸人になるときにやっていてよかったなと思うことがあります。それは、親に「もし辞めたとき」の話をしていたことです。

芸人になった理由はいくつもあります。もちろん一番は「モテたい」です。ただ、同じくらい大きな理由が、「コミュニケーション能力」「プレゼンテーション能力」がこれからの時代の鍵だと考えたことです。これらの能力は芸人として必要ですが、もし仮に芸人をやめて他の職業についても、その職業をずっとやっているより「むしろ近道になる」と考えたのです。

もちろん、芸人を辞めるとは1ミリも思っていませんでした。しかし、この話をしたことで、親としても応援しやすかったと思います。また、この10年で芸人を取り巻く価値観が変わり、「武器はお笑い1本」というタイプには未来のない時代になりました。別の選択肢を視野に持っていたからこそ、柔軟に活動を続けられています。

まとめ

親に「自分が芸人」だと伝えることは、あなたが売れて有名になるつもりなら、いつかは通る道です。もしかしたら、すぐには理解してもらえず、時の流れが必要かもしれません。ただ、親子ならどこかで理解し合えると信じたいです。

きっと、「芸人は甘くない」とたしなめた親ですら、芸人の給与明細を見て「自分も甘かった」と痛感することでしょう。僕は、芸人は職業というより、人生ゲームの一発逆転マスだと思っています。

だからこそ、親御さんは「こいつは無理だ」と思ったら全力で止めてあげてください。逆に、応援したいけど親としては複雑という方のために、僕は「芸人になったことを後悔したことは一度もない」ということは最後に断言させていただきます。

執筆:東大卒芸人 山口おべん

1988年生まれ。私立開成中学校・高等学校、東京大学文学部言語文化学科言語学専修課程卒業。W東大卒コンビとして「アメトーーク!」など番組出演。 2020年1月から、コンビで自身のみエージェント制を選択。芸人になった動機はいくつかあるが、一番は「モテたかったから」。