初めてのラジオで若手芸人がやりがちな失敗とトーク力を鍛えるコツ
執筆:吉松ゴリラ
SHUプロモーション所属。宮崎大学大学院主席。もともとコンビで活動していたが、解散後ピンへ転身。「激レアさんを連れてきた。」「新春おもしろ荘」「ガキの使いやあらへんで!」「ウチのガヤがすみません!」など多数出演。
若手芸人になったら、必ずといってもいいほど「ラジオ」を行う。自身のトークスキル向上に繋がるし、そこで得られる経験値はあって越した事がない。
ただひとえに「若手芸人のラジオ」といっても媒体は様々で、YouTubeやライブ配信、ラジオアプリなどが一般的である。
ここで力をつけて、いつか大手キー局で冠ラジオを持つ事が多くの芸人にとって夢となる。
今回は、初めてのラジオでやりがちな失敗をご紹介させて頂く。
是非、最後までご一読頂きたい。
目次
話す事に必死になる!笑わない人々!
相手のトークに全く笑わない人々。
彼らは相手の話終わりに放送事故級の間を製造する地蔵タイプと、相手の話に必ずボケ・ツッコミで返す初級芸人タイプに分かれる。
お前は何しにここへきた!?地蔵タイプ!
地蔵タイプは、芸人に課された「しゃべる」という仕事を、倫理道徳モラル全てを捨てて押し黙る。
このタイプは「電波に乗せて声を出す」という行為に、過度に緊張する芸人に多い。
ある程度場数を踏み、ベテラン勢の仲間入りをした先輩芸人の中にも、急に大きなラジオ番組に呼ばれると緊張から地蔵タイプに変貌するケースも多々見受けられる。
また「初めてラジオを録る」という場合、どう話していいのか急に分からなくなる事もしばしば。
「このボケにツッコんだ方がいいのか」「この話終わりの後、自分が話す番だけど、どう話せばいいんだっけ?」など、初めてならではの戸惑いから旧式PC並みにフリーズする。
結果、「放送事故級の間が空く」「会話が弾まない」「そもそも自分の事で精一杯で、相手の話を聞いていない」などの案件が発生し、後程相方にキレられる。
正しいのだが不正解!初級芸人タイプ!
初級芸人タイプは「芸人のラジオは、ボケとツッコミで構成されるもの!」と言わんばかりに、ボケに対して即ツッコむ。
発言のほとんどを「フリ・ボケ・ツッコミ」によって構成するのが、通例。
一見すると間違いではないようにも聞こえる信念だが、実は結構な間違い。
いや言ってる事は全くもってその通りなのだが、「相手の言葉に笑う」が抜けると、せっかっくの「フリ・ボケ・ツッコミ」全てが死ぬ。
芸人2人で織りなすラジオにおいて、「相手の話に笑う」という行為は必須条件。
なぜならこの場に、「2人しかいない」から。この場には公開ラジオや舞台と違い、「お客さん」という笑ってくれる人が存在しない。
そうすると、自分達が笑わない限り、笑い声というものが発生しないのだ。
ラジオという閉ざされた空間では、芸人はプレイヤーであり、かつ、観客でなければならないのである。
ある程度のお笑い好きなら分かると思うが、ネタやトーク中に笑い声が入るのと入らないのでは、聞いていて盛り上がってる感が全然違う。
コロナ前まで多くのバラエティ番組が収録にお客さんを入れていたり、編集で笑いを足したりしていた理由がそれである。
結果、意気揚々とツッコんでもその後に通夜の如き静寂が訪れるので、音声で聞いている人に大スベりの印象を残す。
ちなみにこの「相手の言葉に笑わない」は、実は若手芸人の多くが最初にこのミスを経験し、盛り上がる事ができずに現場を後にする。
一番最初に先輩からもらうアドバイスが「相手の話を笑って聞く」は、もはや若手のラジオあるある。
相の手一つにもセンスが出る!相の手の入れ方が下手な人々!
相方のエピソードトークに対して、相の手の入れ方が絶望的に下手な人々。
このタイプは基本全く会話ができない理解不能者タイプと、会話をする気がないパルプンテタイプ、そして唯々下手くそなのびしろ保有タイプに分けられる。
会話が苦手!理解不能者タイプ!
理解不能者タイプは、基本的に日常会話から微妙に会話が成り立たないタイプが多い。
相手の言わんとしている事のポイントが分からず、話の核となる部分も分かっていない。
結果、オチに必要なフリを話している段階で「あ、その店おれもこないだ行った!」などと自分の話にスライドしたり、相手の話の要点をまとめようとして全然違って無駄な話し直しが発生したりと相手のトークの邪魔をする。
彼ら的には全く悪気はないのだが、これをされるとまとまったエピソードトークが出来なくなる。
ボケ側がこれをやる分にはまだやりようがあるが、極稀にツッコミのポジションにも存在する。
その場合ラジオ終了後、彼らはコンビとしての成り立ちを根本から考える。
そもそも会話をする気が全く無い!パルプンテタイプ!
このタイプはボケに多く見られ、とにかくキテレツなことを言ってボケたいタイプに多い。
彼らの多くは天竺鼠の川原さんや野生爆弾のくっきー!さんを啓蒙し、ボケとはかくあるべしと己の理想をラジオ中に体現する。
個人的には応援したいタイプではあるが、ラジオ中に上手くいくかはまた別の話。
彼らが紛れ込んだ場合、相の手を任せるのはほぼ絶望的。
彼らは「会話にならない」で会話をしたいタイプの為、当然本番中は会話にならない。
このタイプがどう転ぶかは相方次第。自身のエピソードトークは当然邪魔される訳で、その邪魔に対してどういうリアクションをするかが鍵。
ちなみに極稀に「パルプンテの上にボケがおもしろくない」という、一体お前は何がしたいんだという芸人も存在する。
その場合相方の負担は更に高まり、初めてのラジオで大きな傷を負う。
君はまだ下手なだけ!のびしろ保有タイプ!
上記2つの特殊例に比べ、「ただ経験が足りないので下手なだけ」というのがこのタイプ。
このタイプは、今後の努力次第で大きく伸びる可能性を孕んでいる。
なぜならほとんどの芸人は、ここから始まるから。
相の手というのは、唯々うなづいていればいいというものでは無い。
ちなみに芸人用語で、相の手をいれるような聞き手役は「受け」と呼ばれる。
この「受け」の出来次第で、本来10ウケるエピソードが20にも30になったりする。
一般的には注目されない部分だが、「受け」は超重要なお笑いの要素。
「受け」が上手い人は、レベルの高いMCができる。
「受け」の仕事の一例を挙げると、「相手のエピソードに落差を作る」という作業がある。
熱湯風呂に落ちるにしてもただ落ちるのではなく、「押すなよ!押すなよ!」とフリを入れ、その上で押されて落ちるからより大きな笑いになる。
「『◯◯するな』と言ってるのに、『◯◯する』」というのは、お笑いを作る上で基本的な文法。
「受け」は、その「◯◯するなよ」の部分を作ってあげる。
例えば、相方が誰かの悪口エピソードを話すとする。
「受け」の上手い芸人はそれを唯笑って聞いているだけでなく、「その人の悪口は絶対に言うな」等と止めるセリフを言い、相手と対立のポジションを取る。
結果、「その人の悪口を言う」という行為に「本来それはタブーな事」というフリが乗っかる。
相方が悪口を続けた時「その制止を振り切って悪口を言っている」という状況が生まれ、ただ悪口をいうよりも、より強度の高い笑いになる。
上述した例はあくまで一例だが、これは相手のトークが始まった瞬間に「どんなジャンルの話か」「おおよそのオチはどういうものか」と当たりをつける分析力と、そこから逆算して落差を作るお笑いの創造力が必要。
「受け」役に回った時の引き出しの数がものをいう為、経験と地道な努力が必要なのだ。
ちなみに余談だがこの例で言うと、悪口を言われた人へのフォローも「受け」側の役目。
芸人の暗黙の了解で「悪口を言う」と「フォローをする」はワンセット。
悪口を言うなら、悪口を言われた相手が納得できるフォローをしなければならない。
このフォローを「受け」側が怠ると、悪口を言った本人がフォローしなければならず、聞いてる側としてちょっと冷める。
まとめ
今回は初めてラジオを行う際の、失敗例を挙げさせて頂いた。
これらの例は若手芸人のあるあるとも言えるべき内容で、ある意味みんなここからスタートする。
そして数年に渡り練習を繰り返し、自分達ならではのトークを作り上げていく。
ラジオはネタと違い、日常会話の延長となるしゃべりである。
リスナーは、ラジオで話される近況報告でその人個人を知り、会話から2人の関係性を知る。
結局、肩肘を張ってぎこちないトークより、自分達にとって無理のないトークが現段階で一番聞きやすいのだ。
先輩芸人たちのラジオから学ぶとすれば、「芸人のラジオがおもしろい」という事は、「無理のないトークで、かつおもしろい」というレベルまで、長い年月をかけ芸を突き詰めているという事に他ならない。
是非、ラジオを楽しみながら、己のトークを高めて頂きたい。
このコラムがみなさんのお役に立つと幸いだ。
ご一読、ありがとうございました。
執筆:吉松ゴリラ
SHUプロモーション所属。宮崎大学大学院主席。もともとコンビで活動していたが、解散後ピンへ転身。「激レアさんを連れてきた。」「新春おもしろ荘」「ガキの使いやあらへんで!」「ウチのガヤがすみません!」など多数出演。
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