芸人のMCがライブ中にしている仕事
執筆:吉松ゴリラ
SHUプロモーション所属。宮崎大学大学院主席。もともとコンビで活動していたが、解散後ピンへ転身。「激レアさんを連れてきた。」「新春おもしろ荘」「ガキの使いやあらへんで!」「ウチのガヤがすみません!」など多数出演。
世間一般的に「芸人が売れた」と評される場合のほとんどは、TV番組でMCを担当する事になった場合である。それほど数ある芸人の仕事の中でも、花形であるといって良い。
それでは芸人のMCは、どんな仕事をしているのだろうか。
今回は芸人のMC仕事についてお話しさせて頂く。
是非、最後までご一読頂きたい。
目次
どう違うんだ!?芸人MCとアナウンサーMC!
TV出演がほぼ無いぼくにとって、この部分については超個人的な見解で、もしかしたら全然違う可能性がある事を先に言い訳しておく。その上で、下記内容が芸人MCとアナウンサーMCの違い。
フリートークよりも「人」!アナウンサーMC!
まずアナウンサーMCは、どちらかというと「トークの仕事」というよりは、「その人」が持っている「気品や清潔感、華」などが求められている印象。もちろんトークが上手ければ上手いほど良いのだが、しゃべりのスキルと同等、もしくはそれ以上に「その人個人が持つ雰囲気」が大事。
なので、こと「仕切り」に限っていうと、「段取りをこなす事」が仕事の大部分を占める。
つまり練りに練られた「100点満点の構成台本」に記載されている段取りを踏み、100点満点を出す事が仕事。あらかじめ決められたタイミングで進行を切り上げ、決められたセリフでゲストを呼び込む。その他、気の利いたコメントができればスペシャルに最高。
逆にそこの「100点満点」を出すため、発声や発音の授業がエグい程あると聞くが、全く詳しく無いので割愛。
ここが凄いよ!芸人MC!
芸人MCは「アナウンサーMC」で紹介した内容に加えて、笑いを生むために必要な仕事をこなす。というより美も知識もない芸人は、それができないと無価値。芸人MCは黙々とトークの仕事をする。プロフェッショナル。カッコいい。具体的には、次の章でご紹介する。
これが仕事だ!芸人MC!
TVで活躍する芸人MCも、若手のライブ会場で仕切る芸人MCも、やっている事はほぼ一緒。今回はより細かく説明ができる、ライブ会場で企画コーナーを担当する芸人MCを例に挙げて解説する。
そして芸人MCの仕事は、凄まじくざっくりいうと下記3つ。この内容は「どのMCも最低限やっている」内容。ここに加えられる他の要素が各芸人MCの個性であり、カラーである。
アドリブも多い!段取りを踏む!
事前に台本が用意されているTVでのMCと違い、若手芸人MCはライブや舞台などで、ノーカンペでMCをやる場合も多い。しかしその中でも、コーナー全体の段取りをきっちり踏まなければならない。
1、演者の呼び込み&オープニングトーク!
本日の出演芸人を呼び込む。そして、コーナーに入る前のツカミとして、出演芸人と軽くオープニングトークを行う。通常1分前後。ちなみに下手なMCだと、前へ出続ける芸人集団を上手く仕切れず、コーナー持ち時間15分に対して10分程オープニングトークをしてしまい、後で楽屋で怒られる。
このオープニングトークでは、この企画に対しての各々の意気込みなどを聞くのが一般的。この時、芸人MCは、ただ無意味に「さあ、どうですか!?」なんてクソみたいな聞き方をしてはならない。ちゃんと相手がボケやすく、笑いを取りやすい、最低でも質問に答えやすい聞き方を考えて聞く。
2、企画のルール説明!
次にこの企画全体のルール説明をする。このルール説明は、しっかりお客さんに伝えなければならない部分で、このルール説明時にボケ倒して邪魔をした芸人は、やはり後で楽屋で叱られる。
なぜなら、企画コーナーには少しルールが複雑なものもあり、ここがあんまり伝わっていなかったりすると、お客さんはコーナー中何をやってるか分からず、企画自体が失敗に終わる。分かりにくい方は「私は人狼ゲームのルールも知らないのに、ルール説明無しで人狼やられても、何で盛り上がってるか分かる訳ないだろ、バカ!」と思って頂きたい。
当然説明なので、お客さんに伝えわるように、より丁寧に、しかしより簡潔に説明する。なぜならルール説明とは、企画に入る前の説明文。お客さん的にゲームの説明書を強制的に読まされているような時間なので、必要ではあるが、長くは耐えられない時間でもある。また、企画の冒頭であるここがグダると、企画全体がグダり易いので、できる限りスムーズに短く行う。
ちなみに極稀に若手芸人の中で、「グダグダに説明をする」というボケをする芸人がいる。彼らの多くは、「本気でやってもグダグダに説明する事しかできないが、それではMCとして恥ずかしいので、グダグダに説明をしてる風に見せている」というもの。
そうして、そのグダグダっぷりにいちいち相方がツッコみ、訂正をするのだが、基本的にこの「ルール説明」では不要なボケ。なぜなら「このボケが盛り上がりまくる = お客さんがルール自体に注目していない可能性が高く、ルールが分かっていない人がいる」パターンと、「このボケがスベりまくる = シンプルに不要」パターンの、2パターンだから。結局、どちらにしろ不要。
3、コーナー仕切り!
ここでMCは、コーナー趣旨にあった盛り上がりをしているのか、どうすれば更に盛り上がりを作れるのか、ピークをどう作るかを考える。
コーナー趣旨にあった盛り上がりというのは、「企画内容に沿ったボケで盛り上がっている」という事。人狼ゲーム中に自分のエピソードトークを話し出すような芸人がいたとしたら、それはウケても企画の邪魔。いってしまえば横道にそれているような状態。しかし好き勝手する芸人達は往々にして道を外れがちで、それをそっと元の道に戻してあげるのもMCの仕事。
また、コーナー全体のピークを作るのもMCの仕事。ディベートの企画であれば、負けている側に加勢したり、逆に一緒になって詰め寄ったり、とにかくゲームのバランスを取りつつも盛り上げどころを作る。ちなみにこれは、MCのプレイヤーとしての実績と実力によるもの。「この企画においてのプレイヤーの立ち回り」としての正解を知っており、その正解に足りていない部分を、自身で補完している作業。
周りの雰囲気に乗っかっているだけのような瞬間も、実は芸人MCの計算によるもの。誰にも気づかれないが場を盛り上げる、その姿は実にクール。
4、エンディング!
自分で締めるもよし、相手にふるも良し。やはりここがグダると「グダって終わった」という、良くない印象になる。なので1年目の若手MCは、これで叱られる事もしばしば。
上述した1〜4をこなしつつ、タイムスケジュール管理も行う。ただだらりと話が出尽くすまでやるのではなく、各々どれくらいの尺が適しているのか、メリハリを意識したスケジューリングを行う。
蛇足ではあるが、基本的にライブ会場で行う芸人MCは、絶対にグダらせたらダメ。なぜなら仕切りがグダると、見てる人は誰を中心に見ていいか分からなくなる。結果、全体がグダり、ウケなくなる。ツッコまれ系のMCとかも全然ありだが、その場合は、ちゃんと筋を立てる事ができる裏回しが必須。
ちなみに、「仕切りだからボケちゃだめ」ではなく、「グダらせたらダメ」。若手は「仕切りだから、おれボケれないんだよね」とかいう理由で、「ボケないんじゃなくてボケれない」という事実から逃げがちだけど、仕切りがボケちゃダメという理由はない。どちらかというと、100点満点で進んでいる場合でなければ、MC自身が笑いを作るという作業は必要。
なぜならそれこそ芸人MC、全体の笑いを増やす事が仕事なのだから。
君が企画の顔!雰囲気を作る!
基本的に司会進行と、企画・コーナーの軸を作るのがMC。MCの印象が、コーナーの印象といってもいい。
なので基本的には、明るくハキハキと行う。ここが暗いとコーナー全体が暗くなり、ここがグダるとライブ全体がグダる。逆に明るい芸人がMCをするとコーナーは明るくなり、シュールな芸人がMCをするとコーナーは摩訶不思議な雰囲気を纏い出す。
これはMCを担当する芸人の個性にもよるが、コーナーに参加する芸人ができる限りやりやすいよう、雰囲気作りをするのもMCの仕事。
ここが凄いよ!相手に合わせて正解の形を作る!
芸人が行うコーナーは、常に上手くいくとは限らない。ベテラン漫才師の鉄板のツカミが客層によってはスベるように、ことお笑いにおいて、「100%の正解」というのは、事前に用意できるものではない。
先ほどまでの内容を覆すが、究極、芸人MCの仕事は段取りを踏む事でも雰囲気を作る事でもない。なぜならそれは、アナウンサーMCでも代用できる事だからだ。芸人MCの最優先の仕事は、「その場に笑いを作る事」。ただこれ一点のみが突き抜けて重要だ。この一点を成功させるために、「段取り」や「雰囲気作り」が存在する。そして「この日の正解の形を作る」という事こそ、芸人MCに求められる事。
「笑いのプロ」である芸人MCに求められる事は、「どこかでウケたくだりを、この場でやってスベる」のではなく、「この場でウケる笑いを、この場で作る」事。これを成すために全キャリアを総動員させて、笑いを作る。
舞台に上がっている相手の芸人が弱ければ自分で笑いを足し、MCばかり話すといけないので相手の話を引き出す。相手がスベればツッコみ、相手がスベればボケを足し、相手がスベれば「スベッた方がおもしろい」となる状況を作る。相手がウケるようにオチさえ言えば良い所まで全部自分で持っていき、ウケさせる。
相手の芸人がボケ倒したい芸人であれば、彼がボケやすいように準備をする。相手のボケが際立つように一般論を話し、彼の発言の異常性を浮き立たせ、次のボケが出やすいようなフリをし、次のボケが出るまで繋ぐ。支離滅裂な解答が出た時はフォローしつつ、次のボケのためのフリを準備する。
MCとは、全ポジションの人間がつつがなくプレーができるようにするパサーである。湘北高校の宮城亮太が如く、クセのある芸人全てに「ここしか無い」という場所へパスを出し、必要とあれば自分で決める。1つ1つの高い精度でパスを出す一方で、企画全体のゲームメイクも考えるのだ。
時には初対面の芸人相手でもそれを行わなければならないが、彼らはその膨大なキャリアと実力によりそれを可能とする。彼らは、MCだから凄いのではない。凄いから、MCなのだ。
まとめ
今回は、芸人MCについてお話しさせて頂いた。
上述したのは芸人MCが行なっている事の一部であり、全てではない。また、各MCにも個性があり、各々のカラーがある。今後バラエティ番組を見る時に、MCがやっている事に注目して見るとまた、違った楽しみ方ができるかもしれない。
このコラムがみなさんのお役に立つと幸いだ。
ご一読、ありがとうございました。
執筆:吉松ゴリラ
SHUプロモーション所属。宮崎大学大学院主席。もともとコンビで活動していたが、解散後ピンへ転身。「激レアさんを連れてきた。」「新春おもしろ荘」「ガキの使いやあらへんで!」「ウチのガヤがすみません!」など多数出演。
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