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超重要「あるあるなしなし」とは?お笑い芸人が教えるコント設定の作り方

連載
公開日:2021年3月9日

執筆:吉松ゴリラ

SHUプロモーション所属。宮崎大学大学院主席。もともとコンビで活動していたが、解散後ピンへ転身。「激レアさんを連れてきた。」「新春おもしろ荘」「ガキの使いやあらへんで!」「ウチのガヤがすみません!」など多数出演。

みなさんこんにちは。
芸歴10年目、健康保険は親の扶養、吉松ゴリラです。

前回のコラムでコントの種類とその特徴についてお話ししました。
今回はもう一歩踏み込み、より具体的なコントの作り方とその注意点をお伝えします。
▶︎芸歴10年のお笑い芸人が教える初めてのコントネタの作り方

実はコントには、設定を作る際に超重要な基本事項があります。
それが「あるあるなしなし」というものです。

※今回のコラムでは必要上先輩芸人様の名前が乱発されていますが、読みづらくなってしまうため、一部敬称略で書かせて頂いております。お会いした事のない先輩方が多いため大変申し訳ございません。お叱りがあれば即行直します。



あるあるなしなし」とは

「あるあるなしなし」とは、コントをスタートする時の環境設定(「医者と患者」とか、「居酒屋と店員」とか)とキャラクター設定(普通のキャラクターか、ヘンなキャラクターか)をそれぞれ「日常にある設定」か「日常にない設定」かで分類する方法です。

【コント設定の分類方法】
・環境設定     : ある なし
・キャラクター設定 : ある なし

「あるあるなしなし」設定、ざっくりまとめ

こうすると、下のように全部で4つにコントが分類されます。

ちなみに以下、それぞれの設定について前編にあげたコント例も使いながら簡単にお話ししますが、重要なのはコントスタート時に「なしなし」の設定は選んではいけないという事です。

・「環境設定:ある」「キャラクター設定:ある」
・「環境設定:ある」「キャラクター設定:なし」
・「環境設定:なし」「キャラクター設定:ある」
・「環境設定:なし」「キャラクター設定:なし」

「環境設定:ある」「キャラクター設定:ある」

日常の風景に、普通の人が登場するという日常系コントになります(※日常系コントって何?と思われた方は、前編をご覧ください)。

一風変わったキャラクターがトラブルを起こしたりする場合でも「あー、こんなめんどくさいヤツいるなー」と、どこかで見かけた、共感できるキャラクターです。
主なボケ方は、直接的なボケではなく、感情の変化やお互いの主張の食い違いを笑いにしているものが多いのが特徴です。

▶︎例:GAG:芸人の彼女
芸人の彼女を持った公務員の彼氏。彼女が新コンビを組み、その相方の紹介がてらネタをみて欲しいという。
彼女を応援している彼はネタを見るのを楽しみにしていたが、いざ見てみると、ゴリゴリのブスネタをする彼女を見ることになる。

「環境設定:ある」「キャラクター設定:なし」

日常の風景に、異常なキャラクターが登場する、いわゆるキャラクターコントになります。
「あるある」のキャラクターはどこかで見たことあるようなめんどうくさいヤツなのに対し、こちらで登場するキャラクターは、絶対にいないヤツが登場します。
ものすごくイカれてたり、独特のしゃべり方をしたりします。

▶︎例:ななまがり:山口晶
カフェでくつろいでいると、突然『山口晶』と名乗る男が話しかけてきて、支離滅裂な問答をしてくる。

「環境設定:なし」「キャラクター設定:ある」

非日常の設定に、普通の人が登場するコントになります。
ファンタジー設定や、擬人化系コントなどがあります。

コント設定:天国と地獄、夜おもちゃたちがしゃべりだす…etc

「環境設定:なし」「キャラクター設定:なし」

非日常の設定に、異常なキャラクターが登場するコント。
恐らくTVレベルで見る事はほとんどないでしょう。
なぜならウケないから。基本、選んではいけません。

「なしなし」設定を選んではいけない理由

「なしなし」設定を選んではいけない理由は、シンプルにウケないからです。

その理由は、『お客さんが共感できる所』がないからです。

コントでお客さんが共感する部分

以前も少しお話ししましたが、共感というのは、お笑いを構成するにあたって最重要項目です。

コントの場合、お客さんが共感する部分がこの2点なのです。

【コントの共感部分】
・環境:環境設定は、より身近な方が共感は高い
・キャラクター:正確にはキャクターの心理状態に共感。こんな事されたら嫌だ!とか、痛い!とか。やはり何度も感じた事のある、身近な感情の方が共感が高い

そのどちらともが共感に値しない場合、お客さんは笑いません。

例えば、ぼくたち芸人が罰ゲームで、大きなカブト虫の幼虫を食べたとします。
食べる前、幼虫が口の前まで来た時は「きゃー!」と悲鳴が上がり、食べた後、芸人が「おえぇ!!」とエヅけば、笑いになるでしょう。

これはお客さんに「あんな幼虫食べたくない!キモチ悪い!」という共感があるからです。

しかしそこの共感がない人、例えば外国人の普段から幼虫を主食としている人にこのVTRを見せても、みんなが何で笑っているかよく分からないでしょう。

つまり『共感のあるなしで、笑いのあるなしも変わる』のです。

ちなみにこの「環境設定:なし」系はネタがシュールになりがちで、シュールへの憧れをもつ芸歴浅めの天才を気取りたい若手芸人が多く挑戦し、そして見事散っていくことが多いパターンです(笑)。

コント設定の最近のトレンド

蛇足にはなりますが、ついでに最近のコント設定のトレンドについてお話しします。

一時期は掛け合わせ型コント(2つの設定を掛け合わせたコント。詳しくは前編をご覧ください)が流行ったため(確かwぼくの周りだけ?)、合わせる2つの設定同士は離れている方が落差がありおもしろいという理由から、非日常の設定も結構使われていた記憶があります(確かねw)。

しかし、現在掛け合わせ型コントはほとんど見かけず、最近は「1切り口を推す設定」がトレンドになってます。

1切り口を推す設定は「日常の中で、いつもと違う事が起こる」という設定の方が作りやすいため、トレンドに押され「環境設定:なし」「キャラクター設定:ある」のパターンも最近では結構減った気がします。

▶︎1切り口を推す設定コント例
ジグザグジギー:喫茶店
喫茶店でジャムトーストの注文が入るけど、ぜんぜんジャムのフタが開かない。その1切り口だけで展開を作り、仕上げている、1切り口を推す設定コントの先駆けとなった名作ネタ。

※ジグザグジギーのインタビュー記事
「チャレンジするなら、早いに越したことはない(ジグザグジギー池田さん・宮澤さんインタビュー)」

【環境設定:あるの方が作りやすい理由まとめ】

「1切り口を推す設定」では、なぜ「環境設定:ある」の方が作りやすいか簡単にまとめます。
※この項目はお笑い芸人を目指している方向けの補足です。(バカほど細かい。一般の人は読み飛ばしてください)

【1切り口を推す設定】
→フリとなる常識が必要
→常識的設定となる「環境設定:ある」の方が作りやすい

「切り口」というのは、めっちゃ簡単にいうと「裏切り」です。

このめっちゃ細かい補足部分読んでる人は「裏切りの笑い」という言葉を聞いたことがあると思います。
その「裏切りの笑い」を設定で行っているのが、この「1切り口を推す設定」なのです。

例えば、だいぶキモチ悪い上にベタですけど
「普通はムチで打たれると痛がる」という常識を
「ムチで打たれると気持ちよがる」という設定
にしてるのが裏切りです。
※現在ではベタすぎて、もはや裏切りになっていないかもしれませんが、言いたい事は伝わると思います。

そして裏切りというのは、その前提として、みんながこうなる!と思っているもの(常識)が必要になります。
みんなが思ってる常識と、リアクションや話のスジがズレるから、「裏切り」になるのです。

そのため、「1切り口を推す設定」では裏切りを行うための準備として「常識的な設定」が必要になり、つまり「環境設定:ある」が基本になるのです。

ちなみにジグザグジギーさんの例のように、裏切りまではいかないまでも、「普通はこうなるところが、そうならない」という非日常が差し込まれることも多いです。
このネタのすごいところは、その非日常も「ジャムのフタが開かない」という、誰もが共感できる設定にして持ち込んでいるところです。

「環境設定:なし」「キャラクター設定:ある」をする場合の注意点


「環境設定:なし」「キャラクター設定:ある」のパターンをする場合の注意点は、『共感しやすい・感情移入しやすい設定にする事』です。

このパターンの場合、環境設定が非日常のため、お客さんが共感するところは「キャラクターの心理状況」になります。

そもそもが「環境設定が非日常」の場合、お客さんのキャラクターへの心理状況への共感もブレやすく(実際自分が体験したことのない環境設定のため、あくまでキャラクターを通して自分だったらこう思うかな?と「想像で」感情移入をしているので)、「いや、そうはならないっしょ?」というお客さんが増えてしまうからです。

なので、環境設定を何にするか決める時、「この環境設定にした時、キャラクターの心理は100%こうなるだろう」とお客さんが共感しやすい・感情移入しやすい設定にする事が重要です。

ぶっちゃけ共感しにくい・感情移入しにくい設定でもいいんですけど、3割のお客さんが感情移入できなければ、その分3割笑いが減ります(笑)。

なので非日常の設定も「割と映画やまんがでよく見る」という設定にしぼった方がいいです。

【この場合の環境設定例】
・友達のいない少年の前に天使がやってくる
・江戸時代の殿様と家来…etc

例えばぼくがお笑い養成所に通ってた頃、同期が「夢売り」というネタをしました。

夢の世界に迷い込んだツッコミが、その世界で「夢を売っている」という老人役のボケに出会うという内容のものです。
確かボケ所が、「夢を売る老人がヘンな夢を売ってる」というものだったと思います。

文字にしただけでも、このシュール感は結構伝わると思います。

そしてお笑い好きな人は、こういう「雰囲気のあるネタ」が好きな人が多いと思います。

しかし結果、このネタは失敗でした。
ウケないんです。

ぼくもめっちゃお笑い好きなので、このネタの雰囲気めっちゃ好きでした。そして養成所生なんてみんなお笑い好きですから、あとで他のクラスメンバーと話したら結構このネタ好評でした。みんな口を揃えて言いました。「雰囲気めっちゃ好き!」と。

しかし、ウケないんです。
雰囲気のあるネタにはなりますが、ウケるネタにはなりません。

理由は簡単、ツッコミの「そんな変な夢売るなよ!」に対する心理状態への共感が甘いのです。共感がなくはないのですが、共感が弱いのです。
実際、路上で変なもの売ってる人に、「そんな変なもの売るなよ!」とめっちゃ言ってる人など皆無なように、別に怒るほどのことでもないのです。

「変な夢を売ってる→そんな変な夢売るなよ!」
よりも
「墜落する飛行機の中で、『今日お前誕生日だったろ』ってケーキ持って来る→いまそんな場合じゃないだろ!」

の方が圧倒的にツッコミ側の心理状態へ共感が強いのです。
納得力が違います。

「そんな変な夢売るなよ!」も、ボケ・ツッコミとしてはぜんぜん成立しているんですが、共感があまりに弱いと、ボケに対してツッコんでもそんなにウケません。技術でカバーしようと思っても限界があります。

何より「良いコントの台本」にはならないでしょう。

「環境設定:なし」「キャラクター設定:ある」をする場合は、環境設定選びは注意して選んでください。

コント設定の作り方

今までの話をまとめつつ、順を追ってお話しします。
コント設定は、コントオープニング時は『「あるある」から始め、「なしなし」にスライド』していくように作っていくのが基本です。

ウケているコント職人のほとんどがそういう作り方をしています。

コントオープニング時

「環境設定:なし」「キャラクター設定:なし」パターンを除いた、下記3パターンから作りましょう。

その後、コント中の展開で他のパターンへスライドさせていくのが基本です。

「え?3パターン?上に『「あるある」から始め、「なしなし」にスライド』って書いたじゃん??「環境設定:ある」「キャラクター設定:ある」から始めるんじゃないの?」

と思われるかもしれませんが、下記3パターンから始めて「なしなし」へスライドする事を、芸人が『あるあるからなしなし』と表現するだけです。略語みたいなものと思ってください(笑)。

【コント始まりは下記3パターンからスタート】
・「環境設定:ある」「キャラクター設定:ある」
・「環境設定:ある」「キャラクター設定:なし」
・「環境設定:なし」「キャラクター設定:ある」

『あるある→なしなし』へ

最初は「あーわかるなー」と共感を十分に得られる設定やキャラクターで堅実に笑いを取りつつ、後半にいくにしたがってキャラクターを壊していったり、環境設定を変化させて「なしなし」へスライドさせます。

なのでどうしても「なしなし」設定を作って天才性を見せたい方は、最初「環境設定:ある」「キャラクター設定:ある」を除いた他2つの設定からはじめて、その後「環境設定:なし」「キャラクター設定:なし」へ移行して作りましょう。

別に「環境設定:ある」「キャラクター設定:ある」から初めて「なしなし」に持っていってもいいんですが、結構尺が必要になるので、それなら最初からどちらか一方を「なし」にしておいた方が早いです。

ただネタの性質上「設定は変化させない方がおもしろい」といいうコントもあります。
逆に「キャラクターは変化させない方がおもしろい」というコントもあります。

「あるなし」や「なしある」で十分におもしろいコントはたくさんあります。
キングオブコント優勝しているネタにもたくさんあります。

別に「なしなし」までいくのが偉いというわけでもありませんので、「このネタが一番おもしろくなるようにするにはどうすればいいだろうか」の視点で見極めて、スライドさせていきましょう。

以下、ちょっと文字だと分かりにくいので、参考になるコントを紹介します。

▶︎『あるある→なしなし』参考コント
GAG:上司

部下の家にダンディな上司が遊びに来る。最初は接しやすい上司だが、部下の息子に自分のことを「おにいちゃん」と呼ばせるようにしむけ出す。

最初は「あるある」でコントスタート。最初のボケも「自分の事を『おじさん』ってあまり言われたくない人が、子どもに自分の事をお兄ちゃんと呼ばせる」という、誰もが1度は見たことのある、した事ある人もいるような絶妙な「あるある」。

そこからの展開で、キャラを壊し「キャラクター設定:なし」へスライド、その後「お父さんが、おじさんを退治する」という「環境設定:なし」へスライドし、「なしなし」にしている、お笑いの教科書のように美しいコント。

まとめ

一般の方には分かりづらいかもしれませんが、実はコントでは設定が超重要です。
ボケのほとんどが設定を土台にしているので、土台がグラグラではおもしろ味も半減してしまいます。

コントにおける重要性は「設定が6割」とも言われます。

逆に言うと良い設定が作れればネタの質もグンと上がるので、是非今回のコラムを参考に、おもしろいコント作りを楽しんでもらえれば幸いです。

※ちなみに今回のコラムで設定については分かりやすくお話しさせていただきましたが、より詳しく知りたいという方はこちらの本をご覧ください。
養成所でコントの作り方教えてくれた方の本です。授業内容を参考に今回のコラムを書かせていただいたので、内容的にはほぼ同じ内容ですが・・。

▶︎参考本
コント入門
著者:元祖爆笑王

執筆:吉松ゴリラ

SHUプロモーション所属。宮崎大学大学院主席。もともとコンビで活動していたが、解散後ピンへ転身。「激レアさんを連れてきた。」「新春おもしろ荘」「ガキの使いやあらへんで!」「ウチのガヤがすみません!」など多数出演。