事務所ライブ!
執筆:吉松ゴリラ
SHUプロモーション所属。宮崎大学大学院主席。もともとコンビで活動していたが、解散後ピンへ転身。「激レアさんを連れてきた。」「新春おもしろ荘」「ガキの使いやあらへんで!」「ウチのガヤがすみません!」など多数出演。
芸人がネタを披露する場としてよく聞く、「事務所ライブ」。一般の方は耳馴染みが無いかもしれないが、お笑いファンの間では日常的にこの「事務所ライブ」という言葉が飛び交っている。
今回は、この「事務所ライブ」について、ご紹介させて頂く。
是非、最後までご一読頂きたい。
目次
一体何だ!?「事務所ライブ」!
お笑いをTVメインで見ている方には耳馴染みが無いかも知れない、「事務所ライブ」。通常、芸人が参加するライブには二種類ある。それが「フリーライブ」と「事務所ライブ」だ。
誰でもおいで!「フリーライブ」!
事務所の垣根のみならず、プロ・アマ関係なく、エントリー代さえ支払えば出演する事ができる「フリーライブ」。
吉本興業などの劇場を持った大手事務所だと、事務所内のヒエラルキーが上がれば、事務所内のライブだけで相当数出演する事が可能。しかし劇場を持っていない事務所の芸人たちは、「出演する為のライブを自分たちで探す」所から始めなければならない。そんな若手芸人たちの主戦場となっているのが、この「フリーライブ」。芸人は「フリーライブ」でネタを研ぎ、後程紹介する「事務所ライブ」で研いだネタを披露する。
ちなみにこの「フリーライブ」、エントリーフィーはコンビ(トリオ)だと2000〜3000円、ピン芸人は1500〜2000円が一般的。
そう、少し前までTVで吉本芸人が「舞台ギャラが500円で、交通費にもならない」と自虐ネタをしていたが、芸人の闇はもっと深い。「お金をもらってライブに出る」のではなく、「お金を払ってライブに出る」。その為多くの芸人たちは、「来月ネタを頑張りたいから、今月バイトを頑張らなければならない」という謎のパラドックスに苦悩する。
ちなみに以前軽く紹介したが、「ネタガチ勢の芸人」が月にこなす舞台数は20本を超える。これを全て「フリーライブ」で賄えば40000円前後の金額が必要となり、彼らは頭にクギを打ち込まれるような痛みに耐えながら、今日も財布を開く。
所属芸人限定!「事務所ライブ」!
これは読んで字の如く、各お笑い事務所が開く「その事務所限定のライブ」。基本的に出演者は、その事務所の所属芸人に絞られる事が特徴。また事務所によっては「ゲスト枠」という枠を設け、他事務所から数組人気芸人を呼ぶ。これは彼らの集客力により多くのお客さんを呼び込む目的と、そのイカした芸を、所属事務所の芸人たちに見せハッパをかける目的がある。
ちなみに「事務所ライブ」というものは、事務所的には所属芸人を世間へお披露目する場でもある。大手事務所の「事務所ライブ」には、TV関係者が観覧にやってくるケースも多い。やってくるTV関係者の多くはネタ番組を抱えており、今後TVへ呼ぶ芸人たちの青田買いを行う。そのため芸人的にはおもしろいネタをし、お客さんを盛り上げつつ、事務所やTV関係者にアピールする場でもある。なので、先に挙げた「フリーライブ」で勝負ネタをかけまくり、「事務所ライブ」へ持ってくるのだ。
また事務所によるが、基本的にはネタは「新ネタ限定」となっている場合が多い。「事務所ライブ」に出演する芸人のほとんどは若手芸人であり、「売れていない芸人はネタを作ってなんぼ」という観点から有りネタでごまかす事は許されない。この新ネタルールが賞レース前にも適用される事務所もあり、その事務所の所属芸人は、叩かねばならないネタを差し置いて、新ネタを披露する。
パターンは2つ!「事務所ライブ」に出演するには!
「事務所ライブ」に出演するには、大きく分けて下記2パターンが存在する。それは「事務所所属組」と「オーディション組」である。
そりゃ出れるだろ!「事務所所属組」!
「事務所に所属しているから、事務所ライブに出演できる」という、極々当たり前の理由で出演できる「事務所所属組」。彼らは新ネタさえ作れば出演は可能の為、極端な話、しこたまスベるネタを作ってもライブに出演する事が可能である。もちろんわざわざスベるネタを作る芸人はいないが、芸歴が浅く発展途上の芸人であったり、「今月バイトが忙しくて、ネタを書くヒマがなかった」という生活困窮者の芸人がこれに当たる。しかしとにかく、新ネタさえ作れば「事務所ライブ」には出れる。
しかし事務所によっては、この所属芸人すら「事務所ライブ」に出演できない場合がある。それは、後程紹介する「事務所のネタ見せ」で、出演芸人を絞る事務所であったり、YouTubeで一次予選を行い、勝ち抜いた芸人のみを出演させる事務所であったりする。これらの事務所は、「事務所ライブ」を一種の興行として重く見ており、「事務所の看板となるライブであるからこそ、選び抜いた芸人を出演させるべき」という理念から、厳正に出演芸人を絞り込む。そしてそこからハジかれた芸人は、悪鬼羅刹の如く、事務所の悪口を言いながら酒を飲む。
目指せ出演!「オーディション組」!
事務所によっては、「事務所ライブ」に「オーディション組」を参加させる事務所がある。「オーディション組」とは、「未来の事務所所属タレント候補」であると同時に、「まだ事務所に所属させるには力が足りない」とされる芸人たち。彼らのほぼ100%はフリー芸人であり、事務所所属の枠を賭けて、このオーディションに参加する。逆に芸人目線でいうとフリーの為、複数の「事務所ライブ」のオーディションに参加するのが一般的。
この「オーディション組」は、まずその「事務所のネタ見せ」に参加する。その「ネタ見せ」で事務所の目に留まり、OKが出ればその事務所のライブに出演できる。しかし先に述べた通り「オーディション組」は「未来の事務所所属タレント候補」の為、芸歴制限や年齢制限があるのが一般的。その条件は所属事務所によって違う為、興味ある方はHPを覗いてみるのも良いかもしれない。
ちなみに蛇足!ネタ見せとは!
上述した文章中に数多く登場した「事務所のネタ見せ」。ライブに通っているお客さんレベルであれば聞いた事があるかもしれないが、「詳しく知っている」という人は少数ではないだろうか。今回は蛇足として、「ネタ見せ」について簡易にご説明する。
実はほとんどの事務所が、「事務所ライブ」前に「ネタ見せ」を行う。「ネタ見せ」とは、講師の前で芸人がネタをやり、アドバイスをもらってそのネタをブラッシュアップさせるというもの。講師役は、外部から作家さんを呼んだり、自社のベテラン芸人が行ったりする。そうして実施されるこの「ネタ見せ」でアドバイスされる内容は、当然お笑いファンがアンケートに書く感想内容とは、一線を画す。
ネタ見せの目的は、あくまで「そのネタのブラッシュアップをする事」。つまりそのネタをより良くする「改善案」が必要となる。ここが抜けると、お笑い好きがネットに書き込む感想と同一であり、わざわざ時間を取る必要がない。
極々稀にいる外れの講師の場合、アドバイス内容が「そのネタの感想」に終始するケースが多い。例えば「前半のボケが弱い」・「ツカミまで長い」・「この部分はおもしろくないから変えた方が良い」などになる。
このような感想は、極端な話、ライブで2.3回ネタをかければ分かる事。「ブラッシュアップ」が目的なのであればそうではなく、「前半のボケが弱いのであれば、どのようなボケ方に変えるべきか」「ツカミまで長いのであれば、どのような方法でツカミまでを短くするのか」まで言及して初めて「ネタ見せ」。
それにはボケの代案を提案する大喜利能力から、このネタの「核」が何なのかを理解し、その「核」がより映える見せ方を考える構成能力が必要となる。
また、目の前の芸人に合った提案をする事も重要。「◯◯さんのようにー・・」は、自分の好きなお笑いの押し付けにすぎない。お笑いは一点もの、目の前の芸人の個性にあった提案をする。
ちなみにこの「ネタ見せ」、先に述べたように講師によって当たり外れが存在する。なので芸人間では、どの事務所のネタ見せが良いらしい、あそこは悪いらしいと噂が立ち、弱小芸人が自分が売れない事をネタ見せのせいにして酒を飲む。
まとめ
今回は「事務所ライブ」についてお話させて頂いた。
ちなみに多くの「事務所ライブ」はピラミッド式になっており、ネタで勝ち上がると更に上のライブに出演できるようなシステムになっている。審査方法は事務所によって違うが、大体「お客さん票」・「作家票」・「お客さん票と作家票の混合」の三ケース。
そう、「事務所ライブ」とは、芸人が最初にネタで乗り越えるべき壁であり、このライブに向けてネタを研ぎ澄ませていく目標でもある。
更にちなみにこの「事務所ライブ」、事務所毎にカラーがあり、お客さんは自分好みの事務所に足を運ぶ。是非皆さんも、一度「事務所ライブ」で珠玉のネタをご覧頂きたい。
このコラムがみなさんのお役に立つと幸いだ。
ご一読、ありがとうございました。
執筆:吉松ゴリラ
SHUプロモーション所属。宮崎大学大学院主席。もともとコンビで活動していたが、解散後ピンへ転身。「激レアさんを連れてきた。」「新春おもしろ荘」「ガキの使いやあらへんで!」「ウチのガヤがすみません!」など多数出演。
他にもこんな記事を書いています