芸人と人脈
執筆:吉松ゴリラ
SHUプロモーション所属。宮崎大学大学院主席。もともとコンビで活動していたが、解散後ピンへ転身。「激レアさんを連れてきた。」「新春おもしろ荘」「ガキの使いやあらへんで!」「ウチのガヤがすみません!」など多数出演。
芸人と人脈ーー・・
果たして芸人にとって、人脈はどれほど大事なのか。また、芸人にとって人脈とは何を指すのか。
今回はお笑い芸人にとっての人脈についてお話をさせて頂く。
是非、最後までご一読頂きたい。
目次
芸人に人脈は必要?
「芸人をしているが、売れずに苦労している」と伝えると、「だったら売れてる芸人と繋がれば?仕事もらえるでしょ?」と言われたーー・・
これは多くの芸人が、一般の方に一度は言われた事ではないだろうか。親や親族、学校の同級生にバイト先・・場所と人を変えても、ほぼ必ず言われる言葉である。
この背景を推察するに、一般の方に「売れてる芸人や、売れっ子プロデューサーとの人脈があれば、芸人はすぐ売れる」という認識があるのだと思う。
しかしながら、実際の芸人世界はそんなに甘く無い。ぼくの知っている限り、「人脈だけで売れた」という芸人は唯の一人も存在しない。
それは社会人の方が「偉い人を沢山知っている」というだけでは仕事にならないのと同様、「本人に確かな力があり」、「それを周囲に示した上ででなければ」仕事にはならないのである。
個人的に気にいってもらえればプライベートで誘ってはもらえるが、プライベートと仕事は別。どの世界も、本気の仕事とはそういうもの。
とはいえ、人脈は持っているに越した事は無い。今回は、芸人で人脈を持つ人々をカテゴリ分けし、ご紹介させて頂く。
大規模事務所に多し!芸人の人脈を持つ人々!
大規模事務所に多い、芸人の人脈をしこたま持つ人々。彼らは自身のお笑いレベルでは決して出会えない先輩芸人と繋がり、誕生日会に呼ばれたり旅行に連れて行ってもらったりする。
そんな誰もが羨む人脈を持つ入り口は、ほんの些細なキッカケから。
競馬・パチンコの共通の趣味から入ったり、芸人が多く勤めているバイト先に勤務したりと、何の変哲もない日常から入る。
弱小事務所ではそこまで人脈が広がらない小さなキッカケだが、こと大規模事務所においては、既にそこに独自のコミュニティができているケースが多い。
釣りが好きな芸人が集まって「釣り部」を作っていたり、サッカーチームや野球チーム、一人の先輩をリーダーに気の合う仲間が集まる「◯◯軍団」というのも多数存在する。
そして大規模事務所のコミュニティの場合、そこに入っている先輩は賞レースファイナリストクラスであったり、TVで見ない日がない売れっ子芸人だったりする。
本人さえ人見知りをしなければ、その巨大組織に入った途端に、それらの尊敬すべき先輩達と一気に繋がれるのだ。
ちなみにこの「芸人の人脈を持つ人々」は、「人脈を持つ事で悦に入るダメ芸人タイプ」と「人脈を励みに変える芸人の鏡タイプ」の二タイプに分かれる。
おれはあの人を知っている!人脈を持つ事で悦に入るダメ芸人タイプ!
読んで字の如く、「自分は、売れっ子芸人と知り合いである」という状況に、悦る人々。
彼らの多くは、ネタやトークなど、本来自分が行わなければならない「芸人としての仕事」に対してモチベーションが低い場合が多い。
彼らの多くは、何となく「自分が今後、爆売れ出来る程の実力をつける」という部分を諦めている場合が多い。
ハッキリと諦めている訳ではないが、「自分より実力のある芸人」が「自分以上に努力をしている」状況でも、一生懸命動けないほどには心が擦り切れている。
そのため、周りの芸人が知り合えない「売れっ子芸人と知り合いだ」という事実が彼を支え出す。
同期・後輩と話す際も、ネタの話より付き合いのある売れっ子芸人の話が中心になり、周りもちやほやしてくれるため、気分も上がる。どこか自分も凄い人になった気がして、気持ちよく酒を飲む。
言ってしまえば「おれの兄ちゃんスゲーんだぜ」と同じな訳だが、お笑いに背を向けている以上は芸人としての居場所がそこしかない。
そうして彼らは今日もまた、コンパで売れっ子芸人の話で盛り上がるのだ。
おれもあの人に並びたい!人脈を励みに変える芸人の鏡タイプ!
先に述べた「悦に入るタイプ」に比べ、非常に健全な精神を持つこちらの人々。
彼らはお笑いへ強い啓蒙があり、高いモチベーションと共にお笑い界を突き進む。
尊敬できる先輩芸人の人脈というのは、実際何にも変え難い宝である。
「仕事を振ってもらえる」などという浅い話ではなく、彼らの一挙手一投足は全て若手芸人の勉強になる。
古来から「芸は盗むもの」と言われるが、「盗む相手」は非常に大事。それが超一流の芸人であるなら、そのひと時は人生の宝と言って良い。
トークに入る間とテンポ、ワードセンスにフレーズの置き方、あいの手の入れ方にトークの展開の方法など、一流は全てが全く違う。
「明日おもしろくなるために、より今日を」と切磋琢磨している芸人にとって、そんな先輩の身近で学べる環境はこれ以上無い勉強の場。
そして彼らは、いつか自分が実力をつけ、これだけ世話をしてくれたこの先輩に並びたいと胸を熱くする。
ネタを作り、トークを作り、先輩に見てもらいダメ出しをしてもらう・・身近だからこそ、その先輩の陰の努力を見ている彼らは、その先輩に負けないよう、今日もネタを噛んだ相方を罵倒するのだ。
フリーに多し!社長の人脈を持つ人々
フリー芸人に多く見られる、社長の人脈を持つ人々。
彼らは直接的に金になる「営業仕事」を好み、色黒の社長が主催するパーティーに顔を出す。
ぶっちゃけコンプライアンスがバカほど厳しくなった時代において、個人で広げていくにはややリスキーな部分もあるこの人脈。
この人脈を多く持つ芸人の多くは、やはり色黒社長と同様目がギラついている。
以前少し書いたが、社長付き合いというのは嫌な事も多い。
無茶振りされた挙句に「つまらねぇ」と言われたり、ないがしろな対応をされたりと、ちゃんと「社長と売れてない若手芸人」を体現したような扱いを受けるケースも多い。
しかし彼らはそれを割り切って懐に飛び込み、更なる付き合いまで持っていき、人脈を金に変える。
そう、「人脈を金に変える」という書き方をしたが本当にその通りで、そういう芸人は社長の事を「人脈」と呼びながら、その実社長付き合いをかなりドライに見ている。
「仕事とギャラをくれるうちは付き合うが、仕事が無くなれば切れば良い」・・真顔でこう言い切る彼らは、やはりその社長と同じく「個人事業主」という一人の社長であり、一つの営業として社長付き合いを行なっているのだ。
そうした彼らは社長主催のコンパに出向き、なぜか日に日に目が据わり、芸人界隈で怖がられるのが通例。あと何となく色黒ぽっちゃりなやつが多いイメージ。
不思議。
人脈なんてクソ喰らえ!孤高に生きる人々!
芸人・社長の他、ほぼ「人脈を作る」という行為を捨てて芸人道を生きる人々。
彼らの多くは、ネタ人生をひた走る。
彼らは、「人脈はあった方が良い」という事は理解している。
また、「人脈を作れるなら作りたい」とも思っている。しかし彼らは、「自分は先輩に気に入られる能力が低い」という事を自認しているタイプが多い。
基本的に彼らの性格は暗く、舞台を降りた後のコミュニケーションはやや苦手。
「おもしろい事を言う」事はできても、「相手と楽しい時間を共有する」事が不得意である。
そのため「誰かと仲良くなる」という力が乏しく、結果、「自分の不得意分野で戦ったところで、コミュ力の化け物に即負けする」という事実を認めているのだ。
そんな彼らが出す結論は「とにかくネタを磨く」というもの。
芸人は「ネタ」という作品に対して、非常に高い敬意を払う。
結果、ネタで頂点を取れば、今まで自分が諦めていた全てが手に入る。芸人間の尊敬も集まり、舞台を降りても話しかけてもらえる。自分を慕う後輩もできるだろうし、社長も向こうからやってくる。
何も持っていない自分が成り上がるには、お笑いしかないーー・・
ある意味一番芸人としての逆転を望む彼らは、今日もひたすらにネタを研ぐ。
まとめ
今回は、芸人と人脈についてお話させて頂いた。
執筆:吉松ゴリラ
SHUプロモーション所属。宮崎大学大学院主席。もともとコンビで活動していたが、解散後ピンへ転身。「激レアさんを連れてきた。」「新春おもしろ荘」「ガキの使いやあらへんで!」「ウチのガヤがすみません!」など多数出演。
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