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意外と知られていないお笑い芸人の飲み会実情、暴露します

連載
公開日:2020年8月24日 更新日:2021年1月5日

執筆:東大卒芸人 山口おべん

1988年生まれ。私立開成中学校・高等学校、東京大学文学部言語文化学科言語学専修課程卒業。W東大卒コンビとして「アメトーーク!」など番組出演。 2020年1月から、コンビで自身のみエージェント制を選択。芸人になった動機はいくつかあるが、一番は「モテたかったから」。

皆さんは芸人って、どんなイメージを持っていますか?

親世代の方にはもれなく「芸人より役者の方が向いているんじゃない?」と言われてしまう、山口おべんです。だとしたら、役者の才能はないと知っているので、芸人の才能は絶望的になります。

とはいえ、確かに一昔前は「いかにも」な芸人さんばかりで、僕のような大人しいタイプや高学歴が芸人になることは想像できませんでした。お笑い界にも確実に、時代の変化が反映されています。

じゃあ、芸人には派手な飲み会のイメージがありますが、今はどうなっているでしょう?中から見た目線で書いてみます。



昔ながらの芸人は

昭和の頃は「破滅型芸人」と呼ばれる、稼いだ分遊んで、酒に女にときに暴力沙汰…みたいな芸人が許されました。一般の方にはできないことだからこそ、むしろ「芸の肥やし」と評価すらされました。

10年位前までは、「先輩は後輩に奢り、その分後輩は先輩のために何でもする」という文化がまだ根付いていたようです。「何でも」とは、主に異性を呼んだりナンパしたり場を盛り上げたりというお膳立てですが、盛り上げるためにエグい飲み方をする事例もあったと思います。

週の半分以上が飲み、先輩の酒やタバコの気遣い、そして豊富な人脈(特に異性)というのが後輩芸人の鑑でした。芸歴15年クラスの先輩にお会いすると、カラオケの合いの手の上手さにびっくりします。

芸人はコミュニケーションを生業にしていますから、良く言えばこうした場で技術と知名度を培っていたと言えます。

今は意外と大人しい

が、これらは今や話に聞く程度です。今遊んでいるのは、どちらかと言えばTV局や制作関係者だと思います。今も「~軍団」は各所に存在しますが、多くは世間の普通の飲みと大差ありません。その最大の理由は世間の変化です。

コンプライアンスやハラスメントの概念が普及し、芸人はむしろ見本としての振る舞いが求められるようになりました。また、一般の方がSNSで簡単に告発できるようになり、一時の盛り上がりに見合わない「致命的なダメージ」のリスクが先立つようになりました。実際、トラブルになった事例も何件かあり、そのたびにコンプライアンス研修に芸人が集められます。

思うに、多様な価値観を認める今の社会では、昔のように芸人が「普通じゃない」ことを笑うことはできません。芸人は、たとえば気弱やチャラ男などの「各立場の代弁者」の役割が求められ、だからこそ隊列を乱すことは許されなくなったのです。

インドアな僕でも、稀に先輩から異性のいる集まりにお誘いいただきますが、最近はたいてい「ボードゲーム」「脱出ゲーム」など趣味の集いです。芸人・タレントにとって趣味は仕事につながるものであり、場合によってそれが出会いの場も兼ねているのだろうと考えながら、僕はお断りのメールを書きます。

上下関係は厳しい…?

上下関係だけは割と残っています。と言っても、「先輩のために何でもする」のは時代に合わないため、「先輩が後輩に奢る」というのが独り歩きしています(だから、芸歴を重ねるほど付き合いを減らす人がいるのです)。

ただし、事務所によって厳格さには違いがあります。吉本は厳格です。とはいえ、僕の同期には65歳で孫2人の美魔女や、中国人の怖いもの知らずのおばちゃんなどもいて、徐々に体育会系の序列が通用しなくなってきています。

それ以上に、他の事務所は所属歴と芸歴がバラバラで把握しきれなかったり、俳優さん・タレントさんが多くて文化が違ったりします。役者さん同士はタメ口の方が仲の良さが伝わりますし、芸歴の長い子役に敬語で芸歴の短いシニアタレントにタメ口というのは印象悪いですからね。

そんなわけで、他事務所の芸人さんと飲みに行くときには注意が必要です。僕は以前、他事務所の医者芸人と飲みに行きました。彼は、芸歴は後輩ですが当時50歳で、しかも同じ大学の先輩です。それでも僕が先輩として接していたので、吉本ルールで当然支払いも僕がするつもりでした。

ただ、裕福な彼は、普段の事務所の付き合いでは先輩の分まで支払っており、そのつもりで躊躇なく頼むわけです。結果、生ビール120円の店でお会計9000円を僕が支払うことになりました。もっとも、それでは彼が気が済まないというので2軒目の支払いをお願いしたら、テキーラのせいで1万円以上していたようですが。

文化系芸人の飲み会の場合

僕は、カズレーザーさんが主宰するクイズ勉強会に参加させていただいており、コロナ前は勉強会後に皆さんでご飯に行く機会がよくありました。メンバーは約半数の芸人のほか、タレントさんやアイドルさんもいらっしゃいますが、芸人が一番でしゃばるので芸人の飲みの例とさせていただきます。

このインテリな集まりには、まず灰皿が存在しません。通常、芸人の約半分は喫煙者で、むしろ喫煙所で先輩と仲良くなるようなところがあるので、もしや仲良くなりそびれた人たちばかりなのかもしれません。

そして、飲み物の注文ですが、いつもたいてい半数が生ビール、残りの半数がコーラです。さすがにそれだけではなくて、たまにアレを頼む方もいますね。そう、ウーロン茶。瓶ビールを見ることはほぼありません。

そして、お笑いのことや異性のこと…もたまに話しますが、結局いつもクイズの話になります。4時間勉強会をしたあとに、さらに1~2時間クイズの話をするストイック(or変態?)な集まりです。

まとめ

世間の目が変わり、お笑い界全体が体質変化を求められる中で、最前線で変化しているのが飲みの文化かもしれません。加えて、コロナによる飲み会の自粛で、今後どうなるのか未知の段階に突入しました。

昨年、EXIT兼近の「酒を飲まない哲学」というインタビューが公開され、チャラ男ですら飲まない時代なのかと衝撃を受けました。芸人とお酒の縁が切れることはないでしょうが、エンターテインメントのプロとして、違う形でのコミュニケーションの場も生まれることを期待しています。

執筆:東大卒芸人 山口おべん

1988年生まれ。私立開成中学校・高等学校、東京大学文学部言語文化学科言語学専修課程卒業。W東大卒コンビとして「アメトーーク!」など番組出演。 2020年1月から、コンビで自身のみエージェント制を選択。芸人になった動機はいくつかあるが、一番は「モテたかったから」。