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漫才?コント?現役お笑い芸人が教える初めてのネタの作り方

連載
公開日:2020年9月2日 更新日:2021年1月5日

執筆:吉松ゴリラ

SHUプロモーション所属。宮崎大学大学院主席。もともとコンビで活動していたが、解散後ピンへ転身。「激レアさんを連れてきた。」「新春おもしろ荘」「ガキの使いやあらへんで!」「ウチのガヤがすみません!」など多数出演。

みなさんこんにちは。
芸歴10年目、家賃3ヶ月滞納中の吉松ゴリラです。

普段芸人をやっているとこんな質問をよく受けます。

「ネタってどうやって作ってるの?」
「ネタ作りって大変なの?」
「結婚式の余興でやってみたいんだけど、難しい?」

恐らく全ての芸人が口を揃えていうでしょう。
「ネタ作りはとても大変だ」と。

ただ実際のところ、ネタを作る事は自体はとても簡単です。
プロの芸人が難しいと口を揃えていうのは、下記フィルターを勝手にかけて答えてるからです。

・このネタにオリジナリティはあるか
・切り口は新しいか
・おもしろかったとしても、TVや賞レースで評価されるネタか・・etc

最初のネタ作りでこんなこと考える必要はありません。

個人的には、ネタを作る事はとても楽しいですし、気軽にやってたくさん人前でやってもらえると良いと思います。

ーーお笑いは、見るよりもやった方がおもしろいーー
これは間違いありません。

とはいえ何から手をつければ良いか分からない方も多いと思うので、簡単に漫才とコントのどちらを作った方が良いのかというのを用途別でお話しします。



ネタを作るなら漫才?コント?

芸人が作る主なネタとして、漫才とコントがあります。
みなさんも聞いた事くらいはあるでしょうが、最初にその違いを説明します。

漫才

今や年末の風物詩ともなったMー1グランプリ、THE MANZAIで広く知られるネタの形です。
じゃあ漫才って何?ってなると、定義は至ってシンプル。

「センターマイクの前に人が立って、2人以上で話す」

ただそれだけです。
「え?それだけ?」って思われる方もいるかもしれませんが、それだけです。
少なくともぼくはお笑いの養成所でそう習いました(笑)。

ちなみに個人的な感想ですが、漫才はネタの王様です。
例えばライブをした時、たまたま全員のネタがコントだった場合、お客さんがどこか不満げです。

エンディングトークで舞台に出ると、お客さんから消化不良的な顔を舞台上に投げかけられます。
「1本くらい漫才が見たかった」と言われます。
全員漫才だとそういう事はありません。
「1本くらいコント見たかった」と言われた事はないんですよね。

「お笑いのネタ=漫才」
そう思ってる人も多いのではないでしょうか。

コント

毎年開催されるキングオブコント。この名前も1度は聞いた事があるのではないでしょうか。

じゃあコントって何?ってなると、定義は至ってシンプル。
「センターマイクを使わない、それだけ」

いやいや雑だろと思われる方も多いと思います。
しかし恐ろしいことに、やはりぼくはお笑いの養成所で講師の先生にそう習っています(笑)。

もう少し分かりやすくいうと「コント=笑いをとるお芝居」という認識で良いと思います。

コントの漫才にない特徴として、以下が挙げられます。
・小道具を多く使える
・音を使える
・衣装などに凝ることで世界観を作り上げやすい(例えば天使と悪魔のようなファンタジー設定だと、漫才だとそれなりの説明セリフや演技力がいりますが、コントだと天使と悪魔の格好で舞台にいればそれだけで伝わります)

マイク1本で全てを行う漫才に比べ、ネタの幅が大きく広がり、笑いの取り方も多様性を見せます。

余興なら漫才・賞レースならコントをやるべき


さて、ここまでお話して
「漫才・コントの違いは分かったけど、どっちをやればいいの?」
そう思われる方も多いと思います。
その回答はこちら。

「どっちでもいい。好きな方をやるのがBest!」

お笑いの良いところは、本来準備となるネタ作りから楽しんでできる所です。
誰かに何かを言われて決めるより、自分がやりたい方を存分に楽しんだ方が良いと思います。

ただ、笑いの取りやすさという点においては、ケースバイケースでおすすめがあります。
以下、そのおすすめをまとめてみました。

余興に強い漫才

一般の方から「初めてだけどネタをやってみたい」と相談される場合、その多くが結婚式や忘年会の出し物としての余興です。

余興でネタをやる場合は、ぼくは漫才をおすすめします。

漫才が余興に強い理由がこちらです。
・アドリブをどんどん入れられる
・お客さんの声にも反応していける
・最悪ネタが飛ぶなどして完璧にやりきれなくても、形にする事ができる

アドリブをどんどん入れられる

劇場の舞台ではあまり関係ないんですが、結婚式などの余興の場だと、漫才が始まって本ネタに入るまでの「枕」の部分の自由度の高さがプラスに働く事が多いです。(※「枕」は、ネタに入る前の雑談と思ってください)

余興の場だと、どこでもやっているネタ部分より「この場だからこそ」映える笑いの方が喜ばれたりします。
(例)
・この会場でさっきあったトラブルの話
・結婚式などのように主役がいる場では、その人たちへの一言
・その場にいるみんなが知っている人のプチ情報..etc

この「枕」の部分で笑いをとり、会場をあたため、ついでに自分たちの簡単な自己紹介をする事で、本ネタがウケやすくなります。

また「枕」でウケた部分を漫才の本ネタ中にアドリブで入れ込み、笑いを倍加させる事も可能です。

コントの場合だとそのあたりが難しくなります。
ちなみにコントの場合は、余興だとこんな感じで進行する事が多いです。

【余興でやるコントの進行例】
コンビとして舞台に登場
→最初はMC的な立ち回りをする(※2人ともマイクを持って、なんとなく自己紹介や雑談。漫才でいう「枕」の部分を話す)

→会場をあたためた所で、「じゃ、今からネタやらせてもらいます・・」と恥ずかしそうにそそくさと袖にハケていく

→再びコント衣装などを着て、登場

→コント

→コント終了後、再びMC的な立ち回り

「じゃ、今からネタやらせてもらいます・・」とハケていく姿は、どのコント師もとても恥ずかしそうです(笑)。
また、1度あたためた会場もなんとなく仕切り直しの雰囲気になるので、あたためた雰囲気のまま本ネタに入れる漫才に比べるとやややりにくさが残ります。

またせっかく自己紹介・雑談で笑いをとり注目を集めていても、コントの準備に時間がかかるとお客さんが周りの人と雑談をしだし、いざコントを始めてみると見てくれてる人が激減してるなんて事もあります。

お客さんの声にも反応していける

当たり前ですが、良いお客さんばかりではありません。
余興の場だと高確率で酔っぱらったおじさんもいれば、調子乗りのおじさんもいます。
さらには、酔っぱらった調子乗りのおじさんまでいます。

こういう方は、静かに余興を見てあげようとか一切考えてません(笑)。そうすると劇場の舞台ではあまり起こらない事が乱発されるのです。

まあ何が起こるかというと、ネタにバンバン入ってきます(笑)。

ちょっとセリフを噛もうものなら
「噛んじゃったよ!」
なんてヤジが飛んできたりします。

ネタがウケてる時でも
「こいつらおもしれぇなーー!!」
なんて声をあげたりします。

「おもしれぇなら、黙って聞いてくれ!」
と、言いたい事をツッコミとして言えるのが漫才です。

「静かに余興を見てあげようとか一切考えてないな!」
「この人ネタにバンバン入ってくるな!」
など、思ったことをバシバシ言えます。

最終的にネタからスライドして、そんな酔っ払いおじさんイジリに変わったりする場合もある位、漫才はその辺りの自由度が非常に高いです。

ところがコントだとそうはいきません。
漫才は「目の前にお客さんがいる」という前提で行うネタです。なのでお客さんの声に反応をしても自然です。
その後ネタに戻っても、十分笑いにつながります。

しかしコントは「病院にいる医者と患者」とか「居酒屋にいる
店員と客」など、シチュエーションと役柄が決まっているので、周りにお客さんがいない前提のネタをしています。

なのでお客さんの声に反応をしてしまうと、シチュエーションに矛盾が出てきてしまうので、反応する事ができません。

ちょっとイメージしずらい方は、お芝居で、客席にいる知り合いにバンバン話しかける役者がいると思ってください。
その後その役者がお芝居の役柄に戻ったとしても、感情移入して見る事は二度とできないでしょう。

ちなみにコントやってるけど執拗なお客さんの攻撃に耐えかねて、お客さん側に話かけちゃうヤツらもいます。
それは芸人用語で「(設定や役を)おりる」と言われていて、現場を見た他の芸人に楽屋でめちゃめちゃイジられます(笑)。

最悪ネタが飛ぶなどして完璧にやりきれなくても、形にする事ができる

最初にネタをやるのであれば、これが漫才の一番のメリットかもしれません。

漫才は最悪ネタが飛んだら、相方に

「・・なんだっけ??」

と聞いてもいいのです。

賞レースなんかだと致命的な一言ですが、余興や普段の舞台レベルでは全然OKです。

ちなみにぼくは芸人人生で何度かこの一言を聞いていますが、このセリフは、なぜかもれなくウケます(笑)。

一番ヒドかったのは、「なんだっけ?」と聞かれた相方もネタが飛んでいて、舞台上で次のセリフの話し合いをしだしたコンビがいます。
結局話し合ったけど全く思い出せず「もう途中からやろう!」と言い出して、大分先のセリフからリスタートしました。

しかし、漫才はこれができるのです。
本当に極端な話、

「思い出せないからここで終わります!ありがとうございました!」

の一言で締めても良いのです(ほんっっとうに極端な話ですがw)。

ただコントは違います。
先ほどお話した通り、コントは「病院にいる医者と患者」など、シチュエーションと役柄が決まっているので、相手に「なんだっけ?」と聞いた時点で終わります。

イメージしづらい方は、やはりお芝居で考えてもらえると分かりやすいです。
1度でも芝居中の役者の口から「なんだっけ?」なんてセリフがでたら、そこから芝居のはぐちゃぐちゃになり、その後のめり込むことはできないですよね。

そしてまた漫才と違い、お客さんはコントを『物語』として見ています。とりあえずストーリーが完結するまで見たいのです。
なので、ネタが飛んだからといって途中で無理やり終わらそうものなら、突然打ち切られた漫画のように「これ続きどうなってんの」ともやもやとしたものが残り、会場にイヤな空気が流れます(笑)。

ちなみにネタが飛んだ時最も最悪と言われているのが、ピン芸人のコントで、ネタに必要なセリフを事前にCDに録音し、CDのセリフと、自分のセリフとの掛け合いでネタを進めていくパターンです。

演者のセリフが飛んでいる無音の舞台に、録音したCDのセリフだけが延々と流れ続けます。
CDから流れてるセリフはもちろん、舞台上の演者との受け答えで成り立つものなので、会話の片側です。
理解不能となった会話の片側だけが延々と流れ続けるのです。
カオスです。

舞台でウケたいならコント

かなりレアケースですが、一般の人から「思い出作りで賞レースに出てみたいんだよね」と相談される事があります。

個人的には一般の人がネタをやる事については大賛成なんですが、いざやってみてゼロ笑いとなるとキツいだろうなと思います。

そんな時おすすめしてるのがコントです。
コントをおすすめする理由がこちらです。
・ベテランとのキャリアを埋めやすい

ベテランとのキャリアを埋める事ができるコント

漫才に比べ、コントはベテランとのキャリア差を埋めやすい特徴があります。
事実キングオブコントの決勝に残っている芸人を見ると、M-1よりも芸歴が若返ります。若手がベテランと戦えている証拠です。

そのベテランとのキャリア差を埋めるものが、先ほどコントの説明でも少しお話ししたこちらです。
・音楽、効果音
・小道具
・衣装

これらは一般の人が思っている以上に有効です。
例えば音楽。

コント中「ネタフリとして感動的な手紙を読んで、その後その感動をひっくり返すようなボケをしたい」とします。
そうすると、ボケの前でどれだけお客さんを感動させられているかでウケ方が全然変わってきます。
お客さんを感動させられたら感動させられた分だけ、ボケが際立つからです。

ちなみに賞レースを見越してネタをするなら、この感動を呼ぶ為のフリで使える時間は、10〜15秒です。
たったそれだけの時間で、セリフ回しだけでお客さんを感動させようとするととても大変です。読む手紙の内容はもちろん、読み手役の感情の機微の出し方や表情など、相応の演技力も必要となります。
これは一般の方には難しいでしょう。ってかこの尺なら、プロでもできる人は限られると思います。

しかし、ここで感動を呼ぶ音楽をかければどうでしょうか。
例えばTVで感動の手紙を読む時によく流れる、アンジェラ・アキさんの『手紙』。
これはこちらが一言も発さずとも、流れた瞬間に感動の雰囲気を作れます。

小道具や衣装も同じです。
表現力だけで「長すぎる刀を持っている武士」だとお客さんに伝える事は難しくても、実際、衣装を着て長い刀を持っていればそこに表現力は要りません。

本来必要なセリフ回しや演技力を、音や小道具を使う事で大幅にカットする事ができるのです。

結果、言葉だけだと伝えづらいあなた独自の発想や切り口を、お客さんに伝えやすくなります。
逆に台詞回しや演技力が必要なコントをすると、よほど才能に恵まれていない限りスベります(笑)。

余談ですが、マイク一本で行う漫才はしゃべりの技術の結晶です。
その為、踏んだ場数と漫才にかけた時間がモロにでます。

M-1グランプリを例にとると、出場資格が芸歴15年までになってから、決勝に残っている芸人は芸歴10年以上のべテレラン勢が大半を締めるようになっています。
切り口や発想の新しさであれば若手芸人の方が有利なように思えますが、それ以上に超えられない技術の壁がそこにはあるのです。

恐らく一般の人がコンビを組んでM-1の1回戦に出た場合、センターマイクの前に立ってからしゃべり出し5秒までに落とされる人が大半だと思います。
それは舞台袖からマイクの前に立つまでの移動の仕方、体とマイクまでの距離、マイクを中心とした体の開き具合などなどから、一発で舞台経験の浅さがばれ、問題外の烙印を押されるからです。

まとめ

いかがでしたでしょうか。
個人的には笑いの取りやすさでいうと、余興なら漫才、賞レースや舞台ならコントをおすすめします。

とはいえ、お笑いは奥が深いです。
自分の持ってる才能、相方のセンス、二人が合わさった時の化学反応など、定石を覆す要素はいくらでもあります。

是非やりたいものをやって、お笑いを楽しんでいただければと思います。

執筆:吉松ゴリラ

SHUプロモーション所属。宮崎大学大学院主席。もともとコンビで活動していたが、解散後ピンへ転身。「激レアさんを連れてきた。」「新春おもしろ荘」「ガキの使いやあらへんで!」「ウチのガヤがすみません!」など多数出演。