お笑い芸人の劇場に対する価値観と劇場で見るお笑いライブの魅力
執筆:吉松ゴリラ
SHUプロモーション所属。宮崎大学大学院主席。もともとコンビで活動していたが、解散後ピンへ転身。「激レアさんを連れてきた。」「新春おもしろ荘」「ガキの使いやあらへんで!」「ウチのガヤがすみません!」など多数出演。
お笑い芸人は、兎にも角にも劇場に立たないと話にならない。
新ネタの稽古をいくらしても、客前に立たなければ意味がない。
今回のコラムを読んで頂ければ、
・劇場に対する東西の価値観の違い!
・お客さん目線の劇場の魅力!
・東京の劇場が多くあるエリア!
を、ご理解頂ける。
是非、最後までご一読頂きたい。
目次
劇場に対する、東西の価値観
売れた後も、劇場に立ち続けたい芸人は多い。
特に関西勢はほとんどそっち側なイメージがある。
関西は「NGK」と呼ばれる吉本芸人の総本山「なんばグランド花月」を筆頭に、数々の劇場が立ち並ぶ。
そこでは今年一年目のペーペー芸人から芸歴40年を超える大師匠まで、同じ板の上で芸を披露。
師匠に触れる若手芸人の中には、「こういう70歳になれたら、最高だな」と込み上げるものがあって当然だ。
一方東京でいうと、浅草に東洋館という劇場がありそこが漫才協会の総本山となっている。
東洋館は以前「フランス座」という名前であり、浅草キッド時代のビートたけしさんが芸を磨いた歴史のある場所でもある。
ただ、東京でいうと東洋館位しか師匠レベルの芸人に会える場所はなく、東京勢はやや芸にドライなイメージがある。
「ネタは、TVで売れるための武器」という位置付けの芸人が多い印象で、「将来もずっと劇場に立ちたいけど、それ以上にタレントとして売れたい」というタイプが多い印象。
お客さん目線の劇場の魅力!
臨場感がある!
劇場の魅力は、何と言っても臨場感。
ネタ一つ取っても、TVで見るのと舞台で見るのとではそのおもしろさが全く違う。
初めて劇場に足を運んだお客さんが世間的に無名の芸人を見て、「何でこの人売れてないの?TVで見る芸人より全然おもしろいんだけど!」と絶叫する事は、最早あるあるだ。
その芸人の実力もさる事ながら、映画などの「一方的に作品を鑑賞する」ものと違い、劇場のお笑いライブは「お客さん自身も参加する一体感」がある。
これはアーティストLiveでボーカルと一緒にみんなで歌っている一体感にも似ており(行った事ないけど)、お客さんは笑い声を発する事でネタに参加する。
少し分かりづらいかもしれないが、これは芸人の共通認識。
例えば、最近コロナの影響で増えてきた無観客ライブ配信をご覧頂いたら分かる通り、芸人が以前と全く同じネタをしていても笑い声が入らないとどこか片手落ちな、ともすればスベッているような印象を残す。
芸人のネタはお客さんの笑い声が入って初めて完成される作品であり、それは特段それを意識していないお客さんにも参加後の高揚となって現れる。
映画作品を見た「おもしろかった」では中々得られない、帰宅時の心の高揚と興奮が劇場の魅力である。
色んな芸人が出る
「TVにも色んな芸人が出てるよ」と言われそうだが、そうではない。
TVは各番組コンセプトや時間帯の制約など幾重にもフィルターをかけており、それをくぐり抜けた芸人のみが登場している。
基本的にキラキラとした芸人や元気が良い芸人が多いのはその為であり、その対比として置かれている闇の芸人も、最低限自分の役回りをこなせる闇芸人が呼ばれる。
しかし劇場には、本当の意味で色んな芸人が出る。
今までの闇がかすんで見えるような暗黒からの使者のような芸人から、ネタのコンセプトすら分からない意味不明な言動を繰り返すピン芸人まで、その幅は非常に広い。
また、キッカケがないから世に出れていないだけで、「ネタやトークのおもしろさは当代随一!」というような芸人もおり、様々な芸人を見る事ができるのも大きな魅力。
東京の劇場の場所
各事務所の事務所ライブが行われているようなメジャー所は、【2021年最新】東京・大阪でお笑いライブが観れる劇場17選】をご参照の程。
本コラムでは、その他の劇場で東京芸人がうろつく場所をエリア毎に分けてご紹介する。
ちなみに、下記にて紹介するエリア・劇場では、売れている吉本興業の芸人はあまり見かける事はない。
吉本興業は自社で多くの劇場を抱えている為、売れている芸人はそちらに回される。
下記劇場を中心に活動する芸人は、他事務所の芸人もしくはまだブレイク前の吉本若手芸人である。
新宿の劇場について
新宿は若手芸人が多く通う、王道中の王道エリア。
恐らく事務所所属の有無に関係無く、ほとんどの芸人がまんべんなくこのエリアの劇場に通っている。
また、都心のど真ん中なのでアクセスも良く、お客さんも呼びやすい事からこのエリアで毎月定期的におこなっているライブも数多く存在する。
「新宿バティオス」「ハイジアV-1」「新宿ブリーカー」「新宿バッシュ」「ナルゲキ」「歌舞伎町Sparkle」・・数えればキリがないが、設備の整った綺麗な劇場が多い印象。
今もなお、2〜3年に1度くらいの頻度で新劇場オープンの情報が飛び交う。
出演芸人は、売れてる芸人から今日の食事代にも事欠く地下芸人まで幅広い。
日本最強の歓楽街というエリアの特性上、コロナ前はライブ後の打ち上げは必須で、歌舞伎町の激安居酒屋はほぼ芸人のテリトリー。
その過密ぶりから、うっかり先輩の悪口を話していたらその関係者が隣の席で聞いていたというホラー話は、もはやあるある。
なので慎重な芸人は、歌舞伎町で芸人の悪口は言わない。
歌舞伎町とは、芸人の口すら封じ込める魔都なのだ。
ちなみに新宿はお笑いの劇場同様、音楽のライブハウスも多い。
その為、ライブハウスを借りてお笑いライブを行う場合もある。
中野の劇場について
中野には小劇場が多く、ここで定期的に行われるお笑いライブも多い。
新宿までのアクセスの良さと出演時の利便性から、中野に住み着く芸人も多数存在する。
劇場も、内装がとても綺麗でお客さんのテンションが爆上がりする「なかの芸能小劇場」から、地下芸人が多数集まるビルの地下「中野Studio twl」や「なかのZERO視聴覚ホール」など幅広く存在。
ちなみに「なかの芸能小劇場」には売れてる芸人も多く出演。
逆に「中野Studio twl」や「なかのZERO視聴覚ホール」には、瞳の奥が濁っている芸人しか集まらない。
下北沢の劇場について
サブカルの聖地、下北沢。
この地区はやたら小劇場がある印象。
「下北スラッシュ」「シアターミネルヴァ」という若手芸人御用達の老舗劇場があり、ライブが開催される日は芸人たちが呼び込みをおこなっているのが通例。
ちなみに呼び込みライブはかなりの頻度でおこなっており、もはや芸人は下北沢のアイコンともいえるかもしれない。
色んな地区の区民会館
劇場と呼べるのかは不明。
いや呼んではならないはず。
しかし、かなりの数のライブが各地区の区民会館でおこなわれているのも事実。
区民会館は安く借りられる為、主催ライブがかなりおこないやすい。
基本的に赤字にならないし、赤字になったとしても数千円。
ローリスクハイリターンを求めて、多くの芸人が区民会館を会場に選ぶ。
パーテーションで一部屋を区切り、半分は楽屋、半分は会場。
楽屋で騒いだ若手芸人が主催者に叱られるのは、もはや通常営業。
誰も気にしない。
このタイプのライブは、お客さんの数より参加芸人の数の方が多いのがデフォルト。
お客さん数5〜6人に対し、参加芸人の数は50人近く膨れ上がる場合もある。
逆の見方をすると50人参加してお客さんを5人しか呼べないレベルの芸人が参加する為、ネタもかなり荒々しい場合が多い。
「おれは次世代の大芸人を見てぇんだ」というタイプのお客さんはこない。
一見するとマイナスに感じるかもしれないが、これは芸人を始めたての「若手中の若手芸人」などが多く参加している為で、お客さんも彼らを応援したいという暖かく優しい人が多い。
その為芸人の技量うんぬんに関係なく楽しんでもらえ、かつ芸人はここで沢山ネタを試し、更なるステップアップを目指せる良き環境。
しかし、突然芸歴10年を超える無名芸人が登場すると、応援したい若手芸人枠から外れるのか大スベりする場合もある、双刃の剣となる会場。
まとめ
今回は、劇場についてお話しさせて頂いた。
「舞台を何回踏んでいるか」がダイレクトに力量に関わってくる芸人にとって、劇場とは無くてはならない場所である。
現在、TVで売れている芸人も「元を正せば劇場でネタを叩き、そこから這い上がった」という芸人が多い。
彼らは「”漫才師・コント師”がたまたまTVに出てる」という認識である事が多く、「別にTVの仕事が無くなっても、劇場でネタをやればいい」と考えている場合が多い。
特に吉本興業など劇場を持っている事務所に所属している芸人は、同じ劇場にずっと立ち続けている。
そのような芸人はこの劇場という場を通じて自己を研鑽し、これまで多くの先輩を見送り、そして多くの後輩を育ててきている。
彼らにとって劇場とは、自己を研鑽する場であると同時に最終的に帰る実家のような場所なのだ。
このコラムがみなさんのお役に立つと幸いだ。
ご一読、ありがとうございました。
執筆:吉松ゴリラ
SHUプロモーション所属。宮崎大学大学院主席。もともとコンビで活動していたが、解散後ピンへ転身。「激レアさんを連れてきた。」「新春おもしろ荘」「ガキの使いやあらへんで!」「ウチのガヤがすみません!」など多数出演。
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