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脱サラして芸人を目指す人へ!脱サラ前にすべきこと・売れるためのポイント

連載
公開日:2022年5月23日 更新日:2022年6月1日

執筆:吉松ゴリラ

SHUプロモーション所属。宮崎大学大学院主席。もともとコンビで活動していたが、解散後ピンへ転身。「激レアさんを連れてきた。」「新春おもしろ荘」「ガキの使いやあらへんで!」「ウチのガヤがすみません!」など多数出演。

最近はお笑い芸人の地位が向上して、イチ職業として世間的な好感度も上がってきた。
結果、以前に比べて「定職を捨てて芸人の世界に飛び込んできた」という人間が増えてきたように思う。

今回のコラムを読んで頂ければ、
・脱サラ芸人を目指す人が、事前にやっておいた方が良い事!
・脱サラ芸人には、なぜ以前の職歴の話が求められるのか?
・脱サラ芸人の自己紹介フォーマット!
・現代バラエティに求められる、芸人のおもしろさの種類とは?
を、ご理解頂ける。

是非、最後までご一読頂きたい。



これは要チェック!事前にやっておいた方が良い事


脱サラ系芸人の強みは、何と言っても前職の経験。
「その職の事を考えるのが嫌だから、芸人になったんだ」という個人の見解を無視するかのように、以前の職歴が世間には刺さりやすい。

「もし自分がタイムリープしてサラリーマン時代に戻ったとしたら、仕事を辞めずにその職業のあるあるネタを真剣に集める時期を半年間はとるだろう・・」そう思いをはせる脱サラ芸人は、意外と多い。

なので、事前にやっておいた方がいい事は、その職業ならではのあるあるネタを大量に用意しておく事。
一般的な感覚と比較して笑い話になるようなあるあるから、笑い所のないあるあるまでとにかく全て用意する。

ちなみに「笑い所のないあるある」も、実はフォーマット次第では全然笑えるネタになる。
能力値がついた時用に、準備しておいた方が無難。

ではなぜ、以前の職歴が求められるのか。以下、説明。

お前は一体何者だ!?超若手芸人の壁

若手芸人の中でも超若手、1〜2年目レベルの話。

芸人になって初舞台を踏んだ瞬間に、多くの芸人が感じる感覚がある。
それはほぼ全ての観客に「お前は一体何者だ!?」と、娘さんを僕にくださいの結婚挨拶でしか喰らわないような視線を投げられる事。

そしてこの視線を感じたと言うことは、結構マイナスからのスタート。
雰囲気的には暖かくない。ここから盛り返すにはそれなりの地力が必要で、下手したら「ネタを全く聞いてない」って客も出てくる。いやマジで。下向いて携帯イジられるなんていうのは、あるある中のあるある。

そしてこの視線が投げられるか否かは、登場からセンターマイクに立つまでの間、2秒で決まる。そしてこの視線の理由は、至極真っ当な以下2点。
①マジで誰だか分からない。
②魅きつけられるものがない。

この超若手芸人にとって、100人の壁以上に高い壁をクリアできるのはごく一部の芸人のみ。
基本、「美男美女」はクリア。「プロとしての立ち居振る舞い」が既にできている芸人もクリア。その他は全員落選する。
ただ上述した「プロとしての立ち居振る舞い」は超若手芸人には基本無理なので、美男美女以外落選すると思っていた方がいい。

美男美女は、誰だか分からなくてもその美貌により注目を集める事ができ、やや好意的な雰囲気から始まりネタをする。
好意的なのでウケもまあまあいい。全くネタを聞いてもらえなかった同期が袖でブチギレてるのが超若手芸人あるある。当然ぼくもその一人。

ちなみにプロは、このたった2秒で魅きつけられる。
何言ってんのか分からない人はYouTubeのアーカイブで、M-1一回戦の動画と準々決勝の動画を見比べてほしい。
センターマイクに立つまでの所作が全く違う。
容姿の美醜ではなく、「プロの漫才師として」お客さんを魅きつける事ができるのだ。

そして話を戻すとこの超若手芸人の壁を越えられなかった芸人にも、盛り返しやすいポイントがある。
それが「マジで誰だか分からない」を解消する「自己紹介」だ。
ちなみにだけど「自己紹介から漫才を始めろ」は、若手時代はめっちゃ言われる。


おれはこういう人間だ!超若手芸人の自己紹介

お客さんも別に、悪気があってこんな視線を投げかけている訳ではない。
一部の顔ファン女子客以外は、基本的に好意的だ。
なのでキッチリと自分の自己紹介をする事で受け入れてくれ、ネタを見る体勢を整えてくれる。

しかし、超若手芸人の持ち時間は長くない。
基本的に2〜3分。1分程度の場合も普通にある。
そうすると自己紹介で尺を削りたくない上に、「20秒で覚えてもらえるような分かりやすい自己紹介した上で、更に笑いをとる」と高難度ミッションをクリアしなければならない。

しかしこれ、お気づきかもしれないが脱サラリーマン芸人だとかなり難易度が下がる。
そんな脱サラリーマン芸人がよくやっている、最初の20秒のあるあるフォーマットがこれ。
①自分の以前の職種を伝える
②その自虐を一言いう

これは「どんな職業だったか」を話す事で、その芸人がどんな人かのイメージが一発で湧くし、軽い自虐で一ボケできる。
更にそのまま職種を使ったネタに移行すれば、「自己紹介をしながらネタを進める」という状態に持ち込める。
1分などのネタの場合は、かなり使い勝手が良い。

芸人にとって「ネタ」とはお客さんに自分達を売り込む「名刺」である。
実際の名刺も山ほどもらったら何が何やら分からなくなり、結局目立つ名刺に目がいくのと同様、簡単に他と違う特徴を盛り込み目立つ事が出来るこの名刺作りは、超若手芸人時代はかなり役に立つ。

お前は動物園の動物だ!パンダもしくは珍獣であれ

もう一つ、別の視点から簡単に解説すると、TVなどのメディアが芸人に求めるものは、「ぶっちぎりでおもしろい」もしくは「珍しい」が多い。

例えば動物園では沢山の動物がいるが、動物園の広報に使われるのはパンダか珍獣。圧倒的な人気者か、他では見る事のできない動物になる。

そしてここがちょっとややこしいんだけど、劇場とTVでは同じ動物園でも少し感覚が違う。
劇場にくるお客さんのイメージは、既に動物園に入ってるお客さん。
なので色んな動物を見たいし、うさぎやヤギなどのベタな動物から魚のコーナーまでまんべんなく見る。

そうして沢山動物を見る事で、お客さんは満足する。
つまり「色んなジャンルの芸人が出る」という事に対して非常に好意的。
だから劇場感覚でいうと、どんな芸風でもウケていれば、うさぎでもヤギでも良い気がしてくる。

しかし、TVというメディアに自分を売り込むという事を考えた場合、それは「動物でパンパンな動物園に、どんな動物を売り込む?問題」に似てる。

動物でパンパンの動物園に何かの動物を売るという事は、「その動物園から何かの動物を出して」「代わりにこの動物を置いてくれ」という提案をするという事。
そうすると当然、「なぜおまえの所からこの動物を買った方が、動物園にとって良いのか」という話になる。

そこでは既に動物園にいるうさぎやヤギなんかは必要ないし、中途半端な動物を提案すると「それはあなたの感想ですよね?」とひろゆき並みに論破される。

TVという動物園が買ってくれそうなのは、圧倒的な人気を誇るパンダかここでしか見る事のできない珍獣たち。
いやパンダも珍獣だろという意見は「それはあなたの感想ですよね」と論破せざるを得ない。

そして脱サラ芸人は、他で見る事のできない珍獣になれる可能性を秘めている。
当たり前の話だが、「実際の業務についた」という経験は、実際に業務につかなければ話す事はできない。
発想や努力うんぬんの話ではない替えの効かない経験なので、オリジナリティを持つ珍獣枠を視野に入れる事ができる。


これが令和芸人の闘い方!おもしろいに何をのっけるかの時代


ちなみに現在は、「おもしろい」に「何をのっけるか」の時代。その掛け合わせで評価される。
もう少し噛み砕いて言うと「おもしろい」は「当たり前・前提」で、それにどんな「個性・オリジナルティ」をのっけるかの時代。

昔は「芸人が足りないから、とにかくネタできたら何でもいいからそいつ出せ!」というレベルでTV出演が決まるという時代もあったらしいが、現在おもしろい芸人は腐るほどいる。
てかおもしろい芸人がいすぎて、各劇場で腐ってる状況。

そしてもう少しいうと、芸人も「”おもしろい” × ”個性”の掛け合わせで評価される」と知っているので、「おもしろい上に何かしらの個性がのっている芸人」がずらりと立ち並んでいる。

ここでも、「以前◯◯という職業を実際に行なっていた」というキャリアは強い。
カブらなければそれだけで武器だし、カブっていたとしてもライバルが激減するのは間違いない。確かな一つの武器になる。
ネタに使うも良いし、その職業ならではのエピソードトークは替えが効かない。ここでもあるあるネタが超役に立つ。

ちなみにのっけるものは、芸人によって違う。
「おれは一発屋にしか焦点を合わせていない」というゴリゴリのキャラクターから、ニッチな職業、関係性・・キャラになるからと資格の勉強をする芸人だって山ほどいる。取り敢えず、めっちゃ一部を、以下紹介。

のっかってる個性の一覧

▼免許系
医師免許保有者
弁護士免許保有者
税理士免許保有者
美容師免許保有者
看護士資格保有者
介護士資格保有者
一級ファイナンシャルプランナー資格保有者 …etc

▼特殊職業系
元Jリーガー
元海外サッカーチームに所属
元傭兵
元No.1ホスト
元ゴールドマンサックス …etc

▼一般職業系
板金工場で働いていた
小学校の先生をしていた
現役塾講師だ
コンビニで10年バイトをしている
スイーツで本出してる程詳しい …etc

▼こんな二人がコンビ組んだの?系
東京大学卒業者と東京大学卒業者のコンビ
東京大学卒業者とチャラ男のコンビ
男と女装男子(かつバイセクシャル)のコンビ …etc

まとめ

今回は、脱サラ芸人についてコラムを書かせて頂いた。
上述した個性一覧は割と特殊なものである反面、「このレベルだから目立つんだ」という珍獣論を裏付けるものになっている。

しかし、実際はもっとライトなものでも良く、どちらかというとその職業を「どのような切り口で語るか」が非常に重要である。
例えば一級ファイナンシャルプランナーの芸人のネタでは、「一級ファイナンシャルプランナーが見た、サザエさんの家の世帯収入」などがある。

その視点はやはり知識と経験からくるものであり、是非自分の人生の一部を捧げたサラリーマン時代の経験を、大いに武器として振るってもらえればと思う。

このコラムがみなさんのお役に立つと幸いだ。
ご一読、ありがとうございました。


執筆:吉松ゴリラ

SHUプロモーション所属。宮崎大学大学院主席。もともとコンビで活動していたが、解散後ピンへ転身。「激レアさんを連れてきた。」「新春おもしろ荘」「ガキの使いやあらへんで!」「ウチのガヤがすみません!」など多数出演。