失敗しやすいお笑いコンビあるあるを現役お笑い芸人が解説
執筆:吉松ゴリラ
SHUプロモーション所属。宮崎大学大学院主席。もともとコンビで活動していたが、解散後ピンへ転身。「激レアさんを連れてきた。」「新春おもしろ荘」「ガキの使いやあらへんで!」「ウチのガヤがすみません!」など多数出演。
芸人志望のほとんどは、コンビ志望である。
最初からピン芸人を視野に入れている風変わりな人間はほとんどいない。
コンビは時に励まし合いながら、時にぶつかり合いながら、それでもなお二人の目標に向かって突き進む。
ふと上を見上げれば相方をリスペクトし合う実力派の先輩コンビも多く存在し、そのような尊敬できるコンビを見る度、自分もいつかあんなコンビになりたいと胸を熱くする。
しかし、芸人にとって「コンビを組む」というのは一種のギャンブル。
組んだ相手が悪ければ、コンビに費やした数年間の努力は全て無駄になる。
今回はそんな、失敗しやすいコンビについてご紹介させて頂く。
是非、ご一読頂きたい。
目次
おまえはおれだけを信じればいい!相方が「支配型」のコンビ!
支配型は、全て自身のコントロールの下に置き、完全なる支配を目論む悪魔。
このタイプを相方に持つ者は思考力を奪われ、最終的に彼の操り人形と化す。
彼は洗脳の力をもって相方を操り、お笑い界の頂点を目指す完璧主義者。
ちなみにこの支配型は、温厚な人間にも多く存在するので要注意。
支配型は自身の笑いへの啓蒙とその自信から、笑いの全てをコントロール下に置きたがる。
ネタはセリフ1文字に至るまで決められ、コンマ数秒の間を外すとキレられる。
「もういいよ!」の1台詞を1時間練習させられる逸話は良く聞く話。
彼らの中では声の音程や抑揚、言葉の入り方から粒立て方まで全てが決まっており、彼らが描いた「もういいよ!」のセリフが言えるまで、永遠に近い時間練習させられる。
誤解しないで欲しいのは、彼らの多くは本気でネタに命をかけているという事。
命を削るような思いをしながらネタを書く彼らにとって、ネタは魂宿る我が子に等しい。
何度も反芻しながら修正された台本のセリフは既に声となって聞こえており、その声に合わせてまたボケを書く。
つまり彼らにとっては、自分に聞こえている声と、実際の相方の声とのチューニングが合っていない状態。
相方が頭に鳴り響く声と全く同じ声を出せるまで、彼らは無限にタクトを振る。
そしてこのタイプから、ネタで名を馳せるような芸人が出る事もしばしば。
そう、なぜなら支配型は超完璧主義者が多く、かつ努力家であり、そして上述の通り命を削ってでもネタを書く。
むろん、ハシにも棒にもかからない支配するだけのゴミ芸人も数多く存在するが、才能を信じ切れるのであれば全ベットしてもいい、何とも悩まし気な相方。
あの人だったらウケるのに・・!相方が「理想押し付け型」のコンビ!
相方に自分の理想とするボケ、もしくはツッコミを押し付ける理想押し付け型。
このタイプはネタ作成の経験値が少ない養成所生レベルに数多く生息し、相方に無理難題をふっかける。
彼らの中には確たる漫才・コントの理想像がある。
それは彼らの憧れるM-1王者であったり、キングオブコント王者であったりする。
そして相方の得意不得意は全く無視し、まるで自分たちがそのコンビであるかのようなネタを作成し、それをそのまま相方に強要する。彼らの口癖は「おまえが◯◯さんだったらウケるのに」。
お笑いとは不思議なもので、ボケにしろツッコミにしろその人にあった笑いの取り方というものがある。
恐らく王者同士でシャッフルしても、組み合わせによっては全然ハマらないコンビもある。
それだけ、「◯◯さんのようにやって欲しい」という注文は難しいのだ。
つまり、笑いの取り方は服と一緒で、本人に合ったものでないとキマらない。
理想押し付け型がやっている事は、相手の体型や体のバランスなど一切気にせず自分好みの服を着せて、「似合わない、あのモデルなら上手く着こなせるのに」と言っている事と同義。
漫才にしろコントにしろ、自分の個性も相方の個性も輝く服をデザインし、世界にただ一つの一点ものを作り上げる事が「コンビになる」という事なのだ。
良くも悪くも水と油!「性格の不一致型」コンビ!
これはコンビのどちらが悪いという訳でもなく、とにかく2人の性格が合わないというコンビ。
例えば真面目とやんちゃ、時間におおらかな人と規律に厳しい人など、性格の不一致が災いし、コンビ不仲となり解散する。
ちなみに、性格の不一致は何も悪い事ばかりではない。
特に漫才において、対比ができる真反対の二人というのは非常に強力な武器になる。
彼らそれぞれの人格が、既に相手の人格に対してのフリとなっている訳で、両極端な意見をボケに変えやすい。
しかしそれは、あくまで「ネタ」の場合。
実際プライベート時間も長く過ごすコンビにおいて、性格の不一致はかなりキツい。
特にコンビは不仲になりやすい要因を多分に含んでいる。
ネタに入れるボケのセレクトから、平場の発言に対する返しやフォロー・・お笑いに本気であるからこそ、意見のぶつかり合いからケンカになる場合も多い。
つまり、そもそもが相方に対してイライラしやすい関係性なのだが、そこに油を注ぐ相方の行動は、不仲の原因になりやすい。
「仲がいいからコンビを組んだ」ではなく「ビジネスパートナーとしてコンビを組んだ」というコンビほど、この性格の不一致に苦しめられる。
ネタで相応の結果が出ていればいいが、それが多少でも停滞すると「ビジネスならもっと良いパートナーがいるのではないか」という思考になるのは自然の流れ。
結果、コンビ解散に陥りやすい。
互いが互いに依存中!「相互依存型」コンビ!
極稀に存在する相互依存型のコンビ。
コンビの双方共が、双方に依存している珍しいタイプ。
これらの人々は、更に「DVカップル型」と「優柔不断コンビ型」に分類される。
叱り叱られ!「DVカップル型」!
DVカップル型は、どちらか片方の発言力が圧倒的。
パワーバランスであれば「10:0」。発言力を持っている方は、上述した「支配型」も兼ねるケースが多い。
しかし、支配型と違うのは、彼は彼で相方に依存しているのだ。
意見が合わなければバチバチに詰めて怒鳴り散らすが、彼の中でそれは全て相方のため。
おまえと共に成長し、おまえと共に天下を獲る・・だからおれは叱るのだ・・彼の心の中は、ヒロイックな三文小説で形成されている。
そして周囲が引くほど叱られている相方もまた、不思議と彼に依存している。
「おれも叱られてムカつくけど、結局あいつの言ってる事って正しいんだよな・・」と、さして正しくない意見を受け入れる。
別に好きにすれば良いのだが、これはある意味お互いがお互いとも、洗脳にかかっている状態。
よっぽど発言力を持っている側がズバ抜けた才能を持っていない限り、ただズルズルと同じ間違いを繰り返すネタを作ってしまう。
台本の悪さから目を逸らし、相手を叱る事で安心し、相手に叱られる事で安心する、無価値な欲望の共依存。
ウケるorウケない!?責任からの逃避行!「優柔不断コンビ型」!
優柔不断コンビ型は全く逆で、パワーバランスが「0:0」。
つまり、どちらも発言力を持っていない。
というより、持ちたくない。
お互い優柔不断なために、決断や責任を相手に求め、依存する。
お互い優柔不断な彼らにとって、何かを決断するという事はある種のストレス。
台本作りなどを隣で聞いていると、かなりおもしろい事も言っているのだが、最終的にどれにするかが全く決まらない。
結局「お互いが良いとは思ってないけど、悪いとも思っていないもの」という折衷案になったり、全然時間が無い中、「もう一度お互いが笑えるものを考える」という結論に至ったりする。
それがコンビのネタの作り方と言われれば他人が口をハサむ権利はないのだが、その結論が「優柔不断」からきている事がよろしくない。
「より良いネタを作るために」ではなく、「決断して責任を負いたくないから」という気持ちからくるネタは、どうしても振り切ったものにならないケースが多い。
しかし、このタイプはその競合を好まぬ優しい性格からお互いに気を使い合い、ただ相手の意見を尊重している場合も多い。
その場合は、コンビ歴が長くなるにしたがってお互いに意見を言い合えるようになり、その時は他のコンビとなんら変わらず、おもしろいネタを量産する。
まとめ
今回は、失敗するコンビあるあるをご紹介させて頂いた。
恐らくどのケースも、芸人ならば出会った事があるコンビ達ではないだろうか。
コンビのあり方は100組いれば100通りあり、実はどのコンビも個性的である。
上述の通り、お互いの長所を長い時間をかけて伸ばし、お互いの個性を爆発させる事が「コンビとして芸歴を重ねる」という事である。
そこに至る前に解散してしまうのは、実は非常にもったいない。
是非、地雷となる相方は避けつつ、より良いコンビを組んで頂きたい。
このコラムがみなさんのお役に立つと幸いだ。
ご一読、ありがとうございました。
執筆:吉松ゴリラ
SHUプロモーション所属。宮崎大学大学院主席。もともとコンビで活動していたが、解散後ピンへ転身。「激レアさんを連れてきた。」「新春おもしろ荘」「ガキの使いやあらへんで!」「ウチのガヤがすみません!」など多数出演。
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