お笑い芸人の養成所に通うメリット・デメリット【現役お笑い芸人が解説】
執筆:吉松ゴリラ
SHUプロモーション所属。宮崎大学大学院主席。もともとコンビで活動していたが、解散後ピンへ転身。「激レアさんを連れてきた。」「新春おもしろ荘」「ガキの使いやあらへんで!」「ウチのガヤがすみません!」など多数出演。
ひと昔前までは芸人になるといったら、師匠へ弟子入りする時代であった。
その後吉本興業がお笑いの養成所を作り、その一期生でダウンタウンさんがブレイク。
世にカリスマが誕生し、芸人志望の人間に、「養成所に入る」という選択肢が広がった。
そしてそこから40年。
TV以外にも様々な媒体が立ち上がった現在、養成所には通った方が良いのか。
ここでは芸人志望の方の参考になるように、養成所のメリットデメリット、そして養成所に入らないのであれば、一般的にどのような選択肢があるかをご紹介させて頂く。
是非、ご一読頂きたい。
目次
養成所に入るメリット
相方探しが非常に楽!コンビを組みやすい
養成所に入る一番のメリットと言っても過言ではない、「コンビを組みやすい」。
ピン芸人志望であれば全くもって無価値なメリットだが、コンビ志望にとっては非常に魅力的。
養成所に入れば、数十人〜数百人単位で同期がおり、そのほとんどが相方候補と言っても過言では無い。
コンビを組んだ状態で入ってくる芸人もいるが、その数は少数で、養成所時代に解散する事も多い。
解散後は彼らも相方候補となり、そこでコンビを組んで結果を残している先輩も多い。
しかし、事務所無所属のフリーで相方を探そうとする場合、その相方候補の母数は激減する。
そもそも「腕がある」「相方を探している」の両条件を満たす芸人と出会える機会が極めて低いのだ。
通常、フリーの芸人が相方を探す場合、「自分のツテで探す」か、「フリーライブに見学へ行き、そこで相方候補を探す」のほぼ2択。
極稀に出会い系よろしくネットで出会う。
芸人になる前から芸人のツテを持っている人はほぼいないだろうし、フリーライブで探すにも既にコンビを組んでいる芸人は候補外。
解散を狙うにも山ほどコンビがいるわけで、いつどのコンビが解散するかなど定点観測で追える訳もない。
結果的にフリーでコンビを目指すのであれば、フリーライブにいる、まだコンビを組んでいないピン芸人が候補になる。
そしてフリーライブのピン芸人にこそ、「腕がある」「相方を探している」の両条件を満たす芸人が皆無なのだ。
両条件を満たしている芸人は、とうの昔にコンビに誘われコンビを組んでいる。
「腕がある」が「ピン志望」の芸人は、誘われても当然ピンをやる。結果、残っているのは「腕はないが、コンビ志望」という、コンビを組みたくても組めないピン芸人の集団ばかり。
そうすると「おもしろくて、未来が見える相方」を探す難易度が、大きくハネ上がるのだ。
青春時代の一ページ!同期が増える
「コンビを組みやすい」同様、養成所に入るメリット上位に上がってくるのが「同期が増える」。
同期の一番のメリットは、互いに切磋琢磨できる環境が整う事。
これは部員数が多い部活と部員数が少ない部活であれば、どっちが切磋琢磨できるかという話と類似。
当然ライバルが多い方が、自分の実力も正確に測れ、それを基に努力に励む事ができる。
厳密にいうとそんな馴れ合いは必要無いのだが、辛い時、キツい時、励みになる同期がいるという事もまた嬉しいもの。
ちなみにもちろん、それでもサボるやつはとことんサボる。
更にちなみにぼくの後輩で、養成所に入ったがその時入学者が彼一人で、同期が0人だった芸人もいる事も添えておく。
養成所に入るデメリット
結構キツい!お金がかかる
事務所にもよるが、養成所への入学金が五十万円前後必要。
また入学金の他、養成所を卒業し、事務所に所属する時もお金が数十万円必要となる事務所もある。
自力で貯めようと思うと結構ヘビーな金額で、1年間バイトをしまっくて入学金のお金を貯めたという芸人も多い。
そこで1年間ロスするのが嫌だという即行動タイプには、事務所によってはそっとローンを紹介してくれる。
外のライブに出演禁止!客前に出るスタートが1年遅れる
事務所によるが、基本的に養成所期間は他ライブに出演禁止。
なぜなら事務所目線で考えた場合、「養成所生」は「事務所の預かり」的な立ち位置になり、ある程度の監督責任が発生する。
しかし、昨日までは一般人でかつ、変わった人間も多い芸人志望は何をしでかすかは分からない。
礼儀作法に厳しい先輩がいたり時に大御所ともカラむ可能性のあるこの世界において、まだ教育も終わってない半端者(という位置付け)の養成所生を外のライブに出すのは非常に怖いという判断は至極当然。
結果的に、数ヶ月に1度開催される養成所の事務所ライブ以外は出演禁止の場合が多い。
ちなみに実際に養成所に入れば、このシステムに納得をせざるを得ない激イタの芸人の存在があまたに確認される。
そのような理由もあり、養成所時代は芸歴にカウントされない。あくまで「芸人とは」という事を学んでいる人たちという、「芸人未満」という位置付け。
結果的に、養成所生は養成所内でのネタ見せ活動がメインになる。「客前でネタをやる」という行為は、ほぼほぼ養成所期間はお預け。
なので早く人前でネタをガンガンやりたい!という人は、まんじりとした期間を過ごさなければならない。
長志望は自力で売れろ!売れた時独立がしにくい
養成所に入るという事は、すなわちその事務所に所属希望という事。独立をしたいかどうかは別だが、事務所に所属した場合、売れてから即サヨウナラという訳にはいかない。
最近のさらば青春の光さんやラランドさんのように、自分で事務所を立ち上げ社長として成功をしている芸人も存在する。
恐らくこれからもっと増えていくだろう。
なのでその路線を目指し、芸人として成り上がると同時に個人事務所の社長として運営も行いたい方は、最悪養成所に入って事務所所属前に辞めるという、養成所への入学金をドブに捨てる無意味な離れ技が必要である。
おれはおれの道を行く!フリーからのしあがる人々
フリー芸人は結構多い。
最初からフリーの芸人もいれば、一度養成所に入り数年間事務所所属となり、事務所を辞めてフリーになる芸人も多い。
だったら最初からフリーでいいじゃんと言われるとその通りで、上述した養成所入学に対してメリットを感じない人は、最初からフリーでも良いかもしれない。
フリーからのしあがる場合、今のところ2パターン。「何某かで結果を残し、TVが呼ばざるを得ない状況を作る」か、「フリーライブで力を付けてオーディションで事務所に所属するか」である。
こちらが今の一般的!事務所所属を狙う人々
現在フリーの芸人の多くがこっちのジャンル。
フリーライブをハシゴし力をつけ、定期的に行われる事務所オーディションに参加し、所属を狙う。
事務所というのは、入るだけでちょっとした恩恵を受ける。
それは個人活動をしていると手に入らないオーディションだったり、先輩芸人のバーター仕事だったりする。
もちろんこれらの頻度や量は事務所によって違い、大手事務所は多く、弱小事務所は少ない。
逆に大手事務所はライバルがべらぼうに多く、弱小事務所はライバルが少ないといった感じ。
いずれにせよ、潤沢なTVオーディションが欲しいならフリーから脱さなければならず、彼らは今日もライブでネタを磨く。
結果を出して、打って出る!とにかく結果を出す人々
今のところ超少数派の人々。先輩で言うとさらば青春の光さんやラランドさん、フワちゃんさんが挙げられる。
逆に言うと、このジャンルで世間に認知されている芸人はこの三組くらいかもしれないが、今後恐らく増えるジャンルの人々でもある。
上述した先輩芸人を見て分かる通り、このジャンルの人々は本当に結果を出さなければならない。
さらば青春の光さんはキングオブコントファイナリストに6度なっているし、ラランドさんは当時アマチュアながらM-1準決勝に進出した。
フワちゃんさんは、YouTuberとして結果を出した後、時代の申し子となっている。
このジャンルを狙う人は、まず先に「誰もが認める、イカつい結果を出す」というのが必須条件。賞レースであれば基本ファイナリストと思って良い。
YouTuber・TikTokrであればバズり切る事が最低条件。
事務所としての後ろ盾や事務所経由のオーディション情報が手に入らない以上、自分の腕一本に人生の全てがかかっている。
まとめ
今回は養成所に入るメリット・デメリットについてご紹介させて頂いた。
TV以外の媒体が溢れ、その新規媒体の増加は、更に加速する事が予想される。
そうすれば学生時代からその媒体を使い知名度を上げた人間が、その知名度を持って、養成所に入らず芸人活動を行う事も容易に想像できる。
現在は時代の転換期。是非、後悔のない選択をして頂きたい。
このコラムがみなさんのお役に立つと幸いだ。
ご一読、ありがとうございました。
執筆:吉松ゴリラ
SHUプロモーション所属。宮崎大学大学院主席。もともとコンビで活動していたが、解散後ピンへ転身。「激レアさんを連れてきた。」「新春おもしろ荘」「ガキの使いやあらへんで!」「ウチのガヤがすみません!」など多数出演。
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