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若手芸人の新たな選択肢、「副業」をやるメリット・お笑いへの影響

連載
公開日:2021年5月13日 更新日:2021年5月27日

執筆:東大卒芸人 山口おべん

1988年生まれ。私立開成中学校・高等学校、東京大学文学部言語文化学科言語学専修課程卒業。W東大卒コンビとして「アメトーーク!」など番組出演。 2020年1月から、コンビで自身のみエージェント制を選択。芸人になった動機はいくつかあるが、一番は「モテたかったから」。

「芸人 副業」と検索欄に入れたら、関連ワードの上から2つ目が「激増」でした。

これからの時代、芸人は副業をするのがスタンダードになるかもしれません。僕、山口おべんも副業で会社員(プログラマー)として働いています。どっちが副業かという何十回目のやり取りはさておき、当事者だからこその考えや分析を書いていきます。



芸人の副業といえば


芸人の副業というと、以前は「売れると飲食店に手を出す」くらいのイメージじゃなかったでしたか?この業界に入って驚いたのですが、「売れている人ほど、いつ仕事がなくなるか戦々恐々として努力する」傾向があります。
だからこそ、知名度があるうちに飲食店や不動産に手を出すのは納得です。

ただし、今回の趣旨とは違いますし、売れていない僕が書いても2行で終わるので割愛します。

最近は、ブレイクとは関係なく副業をする人が増えています。中でも、下のグループAとグループBの違い、皆さんは分かりますか?

◎グループA(敬称略)
  HEY!たくちゃん
  たかくら引越センター
  ギチ 樋口聖典
  さんきゅう倉田
  Gパンパンダ 星野光樹

◎グループB(敬称略)
  東京ダイナマイト ハチミツ二郎
  マシンガンズ 滝沢秀一
  にゃんこスター アンゴラ村長
  ラランド サーヤ

グループAは自分で事業をしている方々です。たとえば、ギチ樋口さんは音響制作のお仕事で、ヨシモト∞ホールの出囃子を作った方。他に、「マンゴー農園で年収1000万円」の芸人さんがいるというのも聞いたことがあります。
いわゆる「士業」など個人事業や、芸人になる前に身につけたスキルを生かしている方も多いですね。

グループBは会社員との兼業の方々です。こちらは本当にここ数年で耳にするようになりました。加えて、コロナ禍でのテレワークの普及や働き方の見直しで、注目される機会が増えています。
3月30日に、サーヤさんが「PERSOL Work-Style AWARD 2021~はたらいて、笑おう。~」著名人部門を受賞したことも追い風です。

若手芸人に副業が少ない理由

副業・兼業する芸人の裾野は広がってきましたが、まだまだ「芸人=バイト」が当たり前です。なぜ、副業芸人が少ないのでしょう?

主に3つの理由だと思います。
①副業の予定を考慮してもらえない
②兼業OKの副業先が少なかった
③芸人は評価されるスキルがない

①「副業の予定を考慮してもらえない」

芸能の仕事には大人数が関わります。僕ら末端に細かく合わせていられないので、お笑いの仕事以外はNGの理由として通用しません。これは当然というか、僕は芸人の存在価値(=素人との一番の違い)は「急なスケジュールに対応できる」ことだと思っています。
ただ、そこに芸人の生活は考慮されていません。

②「兼業OKの副業先が少なかった」

副業OK・副業推奨という社会全体の風潮は、ここ数年のものです。以前は、芸人が兼業をしようにも受け入れてくれる会社がなく、自分で事業をするしか選択肢がありませんでした。

③「芸人は評価されるスキルがない」

履歴書に芸人と書いても、たぶん何も評価されませんよね?芸人はスキルに乏しく、いわゆる「お笑いスキル」にも明確な尺度がありません。コミュニケーション検定(調べたらありました)あたりを芸人必須にすれば評価のしようもありますが、今の芸人の半分は落ちるでしょうね。

さらに言えば、「芸人は苦労してナンボ」という刷り込みが、副業という選択肢をハナからなくしています。挫折知らずの人より「家賃〇万円、風呂・トイレなし」の方が好感が持てるのは確かですが、不安定な収入やスキルアップのなさが結果的に引退を早める場合もあります。

僕が副業を始めた理由

芸人になって3~4年目から感じていたことが、「本当にお笑い一筋で、芸人だけを目指して高卒で養成所に入った人が、一番損をする」ということです。お笑い番組は減り、TVは「お役立ち情報の紹介」が主流になりました。芸人はその良きプレゼンターであり、むしろ人生寄り道した、何かを専門的に喋れる経歴こそ仕事になるようになりました。

幸い、僕はお笑い一筋ではなく(笑)、僕らは「W東大卒コンビ」という強い武器で一定の仕事はもらえました。ただ、東大の知識では専門家に勝てないし、肩書で視聴者に壁を感じさせてしまう。
加えて、売れなければ賞味期限は短いと考えていました。だって、「その武器で〇年売れていないなんて面白くないんだ」ってなるでしょ?だから、何かを大きく変える必要があった。

そんなとき、仲良しの俳優さんに「こんなビジネスのアイデアがあるから一緒にやろう!」と、軽い感じで(でもたぶん本気で)誘われました。ところが、社会人経験がないから事務的なことが分からない。
また、そのアイデアについて詳しい人を見つけて相談したところ、「技術的にはそれをするメリットはない」と。そうした技術的なことも分からない。これでは、将来何かをやりたいときにも何も実現できない。

そこで、まずは会社員として一定の経験をしようと決めました。そして、その経歴はお笑いの新たな武器になる時代なので、せっかくできた人脈を無駄にしないためにも、芸人も続けることにしました。

実際に副業して思うアドバイス

芸人が副業を始めるなら、まず、一定期間「売れない覚悟」は必要です。副業が軌道に乗るまでは、そちらにウェイトを置いてお笑いの仕事を選ぶ必要も出てきます。
僕は、執筆とYouTubeのほか、今でも単発のメディア出演や講演は行っていますが、本格的な両立は来年からと位置付けています。

逆に、これから芸人になりたい人で、もし今の仕事で一定以上のポジションにいるなら、まず「仕事を辞めずに芸人になる」選択肢を考えるべきです。あるいは、もう少し頑張って独立した方が時間の融通が利くなら、それから兼業で芸人を始めた方が結局早いかもしれません。

誤解しないでほしいのは、僕は芸人になってからの経験が無駄だったとは全く思っていません。芸人だからこその社会の見え方や、芸人だからこそ社長さんや個性的な生き様の方々と知り合えたことは、人間的成長や副業という発想にも繋がっています。

だからこそ、「いかに芸人を続けていくか」を考えたとき、これを読んだ方は「それ、早く言ってよ~」という某CMのようなコテコテのオチにならないでほしいと思う次第です。

執筆:東大卒芸人 山口おべん

1988年生まれ。私立開成中学校・高等学校、東京大学文学部言語文化学科言語学専修課程卒業。W東大卒コンビとして「アメトーーク!」など番組出演。 2020年1月から、コンビで自身のみエージェント制を選択。芸人になった動機はいくつかあるが、一番は「モテたかったから」。