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ネタの取り組み方一覧

連載
公開日:2023年7月12日

執筆:吉松ゴリラ

SHUプロモーション所属。宮崎大学大学院主席。もともとコンビで活動していたが、解散後ピンへ転身。「激レアさんを連れてきた。」「新春おもしろ荘」「ガキの使いやあらへんで!」「ウチのガヤがすみません!」など多数出演。

お笑い芸人といえばネターー・・そう、考えられている方も多いと思う。実際YouTubeやTikTokなどが隆盛を極める中、TVで紹介される際の芸人といえば、漫才・コントに代表されるネタである。

また芸人のYouTubeやTikTokにしてもキャラコントでの一言ネタ、またはあるあるネタなど、媒体に合わせた「ネタ」を披露している芸人も多い。結局ごく一部の例外を除き、「芸人」と名乗る以上披露する媒体が変わっているだけで、ネタから逃れる事はできない。

今回は、そんな芸人と切っても切り離せない「ネタ」と、芸人の関わり合いについてご紹介させて頂く。

是非、ご一読頂きたい。

芸人にとってネタとは!

芸人にとってネタとは、名刺代わりの商品であり、強ければ尊敬と敬意を集め、売れるための武器となるもの。ミュージシャンに歌が求められ、スーパーモデルに美が求められるのと同様、芸人にはネタが求められる。

例えばミュージシャンは「歌がうまい人」というだけでは番組には呼ばれない。「歌がうまい」事は前提で、ヒットソングを出して初めて世間に注目してもらえるように、芸人も「おもしろい」だけでは番組に呼ばれず、ネタをヒットさせて初めて沢山の番組に呼ばれるのだ。

TVで活躍するほとんどの芸人がネタを武器に注目を集め、その後TV界で活躍する。「ネタが不要になる」のは、TVに出まくって己の認知度を爆上げし、「自分が出ているだけで価値がある」という状態まで自分の価値を持っていった後の話。それは「バラエティでよく見かける大御所俳優の演技自体は見た事がない」といった状態に等しく、そこまでの道程は険しく長い。

兎にも角にも、「TVで売れる」という事を目標に掲げるのであれば、芸人にとってネタとは切っても切り離せないものなのである。

それでは以下、ざっくりとネタへ取り組む芸人をカテゴリ分けしてご紹介する。これから芸人を目指している方は、是非参考にしてほしい。

これぞ芸人!ひたすらネタを作る人々!

鬼神の如くネタを作り続ける超ストイックタイプの人々。このタイプの人々はネタというものに対して、頭のネジが2、3本千切れ抜けている場合が多い。彼らは「おれたちが売れるとしたら、ネタである」と尋常ではない腹の括り方をしており、逆に道が一つしかないからこそ全生命力をかけてその道を進む。

極稀に彼らの中には「1年間でネタを100本作る」といった修行中のお坊さんも逃げ出す荒業を執り行う者も存在し、それを達成した者は芸人の中で阿闍梨と同じ扱いを受ける。

ちなみに「芸人ってどれくらいネタを作るの?」という方向けに、簡単に芸人が作るネタの本数をご紹介する。

おれはネタで売れる気はない!新ネタを月に1本作る人々!

ネタで売れる気概が全くない人々。
基本的にどの所属事務所も事務所ライブが月に1回はあり、そこで新ネタをかける必要がある。つまり事務所に叱られたくないからネタを作っているという、正に向上心を捨てた最下層の芸人。

ただ、あくまで「ネタで売れる気はない」というだけ。この中にはYouTubeやTikTokが調子が良いのでそちらに注力をし、そっちのネタをバカほど作っている芸人も含まれる。努力と時間を投入する取捨選択を行う事もまた、必要なのである。

中途半端と先輩に叱られる!新ネタを月に2〜3本作る人々!

本人の中で「ネタで売れる気はある」が、「相対的に努力が足りない」と言われる人々。感覚的なイメージだと、このレベルはネタがそこまでおもしろくない芸人の平均本数。

週5で8時間働くバイトの隙間を縫って新ネタを作り、稽古に数日費やしライブにかけ、その後ウケなかった所を修正しつつ、同時並行で新ネタを作る。場合によってはその間YouTube・TikTokの撮影までこなす芸人にとって、間違いなく公務員レベルの努力はしている本数がこれ。

しかし、この本数では全く足りない。なぜなら実力のみ求められる成果主義の芸人界は相対評価であり、この世界に「ネタで食える」というイスの数はべらぼうに少ない。そして彼らの敵が、下記ご紹介する「ネタガチ勢芸人」だからだ。

ネタガチ勢!新ネタを月に4本以上作る人々!

「ネタで売れる」を体現する為に、日夜ネタを研いでいる人々。「月に4本以上」と紹介しているが、この中に1本の新ネタを作るのにネタを1本しか書かない芸人はいない。切り口や候補を複数本用意し、その中からベストな設定を選んでいく。ある意味ネタの設計図レベルであれば、軽くこの数倍は考えている人々。

月に4本というと、週に1本新ネタを作成するペース。舞台の客層によって同じネタでもウケが違う為、普通新ネタは数回舞台にかける。そしてウケた所をブラッシュアップし、ウケなかった所を修正し、更に数回、舞台にかける。つまり1ネタ試すのに3〜5ステ程度は必要な訳で、月4本以上作るこのクラスはステージ数も月20〜30ステ消費している事を表す。

改めて上述の通り、週5日8時間バイトをし、YouTubeやTikTok撮影、稽古時間を含めるとほぼほぼプライベートはない状態。これだけの出演する舞台の予約や管理も行わなければならず、多くのライブを有する吉本興業以外の事務所所属でこれをやろうとすると、事務的能力でパンクする。

そして、この努力に努力を重ねる毎日を1日、1ヶ月、半年、1年、3年、5年と積み重ねてきている先輩達が、ネタで売れる為に倒さなければならない敵の集団。なので芸人志望の中で「ネタで売れたい」という人間は多いが、結構な腹の括り方は必要となる。

ありとあらゆる人とユニットを組む人々!

男女コンビが流行れば男女ユニット、歌ネタが流行れは歌えるやつとユニットを組む節操の無い人々。このタイプは基本的にやりたい事がなく、かつ、ネタを書くのに疲れたピン芸人に多いイメージ。

「とにかくやってみなきゃ分かんないじゃん!」という気持ちから入り、やってみなくても分かる人と組みがち。全般的に、行動力と無鉄砲を履き違えている。また「台本を書けないが、行動力はある」という人に多く見られ、台本を書けないからガワから入るという特徴を持つ。衣装や小物にこだわるのはもちろん、時にそのやる気はYouTubeやTikTokなどのSNS戦略まで網羅する。

そのため割と軽い気持ちでユニットを組んだ相手は地獄。なぜか高いおそろいの衣装を購入する事になり、いつの間にかYouTubeチャンネルが開設され、ライブの合間にTikTok用のダンスを踊るハメになる。その上台本が弱いため補強案の提出を義務付けられ、ユニットでがんじがらめになった所でなぜか相手に解散を切り出されるのが通例。

そうして解散後、彼らはまた次の流行りを見つけ、ユニットを組むという生態を持つ。

ネタの全ては台本に有り!なぜか衣装をないがしろにする人々!

芸人にとってある意味命とも言える、衣装をないがしろにする人々。彼らの多くは「ネタとは台本であり、台本の良さで全てが決まる」と、自信たっぷりに判断を誤る。汚い格好で売れた初期のM-1ファイナリストが心の拠り所で、実際彼らのようなスタイルに憧れを持つ事も多い。

ちなみに一般の方には分かりづらい所だが、衣装の持つ効果は非常に大きい。コントに関しては言わずもがな、漫才でもネタによってはウケ量が2割上がる。別視点で考えれば、台本力のみでネタが2割増しでウケるようになるまでにはかなりの努力と時間が必要。普通に考えれば1年作業。

しかし彼らは兎にも角にも衣装を変えない。事務所のネタ見せなどで、作家さんに「衣装を変えろ」と言われて「分かりました」と返事をしても、翌月全く同じ衣装でくるのは彼らにとって基本。更に翌月「衣装を変えろ」と叱られて「分かりました」と返事をしても、次の月には何の悪びれもなく同じ衣装でやってくる。結果作家さんがどうでも良くなり、徐々に注意しなくなり、そうして彼らは最も価値の無い勝利を挙げる。

だってそれが芸人だろ?賞レース前だけ色めき立つ人々!

普段どう考えてもサボりまくってたのに、ガチ勢に混じり「M-1」「キングオブコント」「R-1グランプリ」と、各種賞レース前のタイミングだけピリつく人々。芸歴浅めの芸人に多いイメージ。

彼らの多くはその矛盾を「売れる可能性が1%でもあるなら賞レースに出る。だってそれが芸人だろ?」の一言で片付ける。普段賞レースへ向けて努力をしていない彼らが賞レースで結果を残す可能性は1%に満たないが、その絶望を、夢と希望と自己暗示で乗り越える。

賞レースというものの結果は、賞レースが始まった日には既に出ているという話もある。つまり、賞レースが始まる前の1年間で積んだ努力が全てで有り、当日はただその結果発表に過ぎない。そうして出た当然の1回戦落ちの結果を、彼らは笑いながら享受する。

そう、彼らはカッコ良い事を言うが、敗北しても実はそんなに悔しく無い。なぜなら何も、積んでいないのだから。

まとめ

今回のコラムでは、ネタと芸人の関わり合いについて書かせて頂いた。

基本的に芸人は一生懸命ネタを作っているが、数年に及ぶ作業の中で壁に当たり、良くない道に走ってしまう事もある。最近は各種媒体が増え、「ネタ以外でもワンチャンいけんじゃね?」という浅い希望を芸人にもたらした。結果、ネタをないがしろにしてしまう芸人も増えてきたが、逆にそんな中であえてネタを選んでいる芸人は、恐ろしいほどに本気のやつらも多い。

もし芸人志望の方が見られているのであれば、是非みなさんの指標にして頂きたい。

今回のコラムが、みなさんのお役に立つと幸いだ。
ご一読、ありがとうございました。

執筆:吉松ゴリラ

SHUプロモーション所属。宮崎大学大学院主席。もともとコンビで活動していたが、解散後ピンへ転身。「激レアさんを連れてきた。」「新春おもしろ荘」「ガキの使いやあらへんで!」「ウチのガヤがすみません!」など多数出演。